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読売ADリポートojo 2007年6月号掲載
連載「経済を読み解く」第78回
世界経済の減速をどう見るか−安定化に向かうなかで漂う不安感−

弊害もある高成長

 2006年、世界全体の実質経済成長率(国ごとの物価水準の違いを勘案しない実勢価格ベース)は約4%に達したが、07年は3%台前半に低下すると見られている。通常、成長率が低下することは、ビジネスの拡大が難しくなるという意味で、産業や企業にとっては、ありがたくない変化である。もちろん、そこで働いている人々にとっても、仕事がうまくいかなくなったり、賃金が伸びなくなったり、最悪の場合、仕事をなくしてしまったりという形で、悪い影響が及んでくる。
 しかし、少し長い目で見ると、経済成長率というのは、高ければ高いほど良いというものではない。経済の成長ペースが速すぎると、経済のどこかに歪みやアンバランスが生じ、それが限界に達すると、経済全体に混乱や停滞をもたらすことになる。
 典型的なのは、経済の成長ペースが生産力の拡大ペースを上回った状態が続くケースだ。その状態が長く続くと、商品やサービスの供給に余裕がなくなり、物価の上昇ペースが上がってくる。それを放置すると通貨に対する信認が失われ、経済に大きな混乱をまねくことになる。
 また、供給力に余裕がある場合でも、一過性のブームや流行によって消費が盛り上がったり、誤った将来見通しに基づいて設備投資が拡大したりといった要因で成長率が高まった場合には、ブームの終焉や投資の失敗が明らかになることで、消費や投資は急速に落ち込むことになる。それまでの盛り上がり方が大きければ大きいほど、その後の落ち込みも激しいものとなる。
 その最も極端な事例の一つが、日本経済が80年代から90年代にかけて経験した、バブルのブームと、その崩壊にともなう長期不況だ。「値段の高いことが良いことだ」という風潮の下で、高額商品やぜいたくなサービスの市場が拡大し、それを前提としたリゾートマンションや豪華なホテルなどの建設が急増した。しかし、そのブームが去ってしまうと、消費市場は一気に停滞し、売れないマンションや採算の見込みの立たないホテルといった不良資産が大量に残された。そのツケは、資金を貸し出していた銀行に回され、90年代の末には、金融システム全体が機能不全に陥る寸前の危機的な事態を経験したのである。
 現在では、そうした認識の下で、地域や国ごとに、長期的に持続可能な「巡航速度」と呼べるような成長ペースが想定され、それを上回る高成長は望ましいものではないという考え方が一般的になっている。成長ペースが上がり過ぎていると判断された際には、政策金利を引き上げたり、財政支出を抑えたりといった、経済の成長ペースを抑制する政策が採られることになる。


巡航速度に向けた調整

 2006年までの数年間、世界経済においては、成長の両輪であった米国と中国の両国について、成長ペースが速過ぎるという懸念が生じていた。米国経済の巡航速度は年3%程度の成長と考えられているが、06年前半までの数年間は、移民の流入を主因とする人口増加を背景として住宅市場が盛り上がったことで、それを上回る4%近い成長が続き、オーバーペースの懸念が膨らんでいた。
 また中国は、06年まで4年間連続で10%を超える高成長を続けているが、それが将来の需要拡大を見込んだ生産設備への投資を主力とするものであることが問題視されてきた。今後の成長余地を考えると、生産設備の拡充がムダになることはなさそうだが、一時的にせよ、供給力が過剰になってしまう可能性がある。そうなると、投資が一気に落ち込み、成長ペースが大幅に低下することになる。
 06年後半から07年にかけて、世界経済の成長ペースが鈍化したのは、こうした高成長ゆえの懸念材料を排除する動きが進んだためでもある。米国では、成長ペースを緩めるために、04年の後半から政策金利が継続的に引き上げられてきた。その効果で、06年の半ばころに住宅ブームが一段落し、経済全体の成長ペースも2%台前半まで低下した。また中国では、成長ペースは依然として高水準を維持しているが、06年には、過剰な投資の抑制をはじめ、環境問題やエネルギー問題への対応など、バランスの取れた成長を目指す政策が打ち出され、過度な高成長に対する懸念は薄らいだ。
 世界経済の約3割近くを占める米国経済が減速したことで、世界経済の成長ペースは鈍化した。しかし、それにともなって、急速な落ち込みや深刻な混乱が生じる可能性は低下した。また、日本や欧州の経済も堅調を維持しており、世界経済は安定した状況に向かいつつある。


漂う不安感

 世界経済が安定化に向かっているといっても、成長ペースが鈍化してきたことで、今度は、過度に減速してしまうのではないかという不安感が高まってきた。実際、米国の成長ペースは、2007年に入っても巡航速度を下回ったままであるし、日本や欧州の経済も万全とは言えない。2月末に上海市場というローカルなマーケットでの株価急落が世界中の株式市場に波及したのも、そうした不安感の現れと考えられる。
 しかし3月以降は、世界各国の株価はおおむね順調に回復していった。株式市場は、先行きに対する楽観的な見方が支配的であるものの、何かのきっかけがあると不安感が一気に吹き上がってくるという状況にあるようだ。市場の見方が楽観、悲観のいずれかに偏ってしまうと、市場は一方向に暴走し、経済の実態を反映しないバブルが生じがちになる。その意味で、現在の市場の状況はきわめて健全なものと言えるだろう。


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