今回は、いささか大風呂敷的ではあるが、現在の世界情勢について考えてみたい。というのも、ここ数年で進んできた国際社会の枠組みの変容が、イラク戦争を経て一段と明確になったように思えるからだ。
アメリカ一極時代の終焉
1980年代末の冷戦終結によって、アメリカとソ連による二極対立の時代が終わり、90年代は唯一の超大国アメリカに一極集中した時代であった。湾岸戦争でも示された圧倒的な軍事力に、90年代後半にはITと金融理論に支えられた経済の絶好調が加わって、政治、経済両面でアメリカが突出することになったのである。
その状況に変化が兆したのは、2000年の末ごろにアメリカの経済成長が鈍化しはじめたあたりからだ。さらに、ITと金融理論を組み合わせて急成長を遂げた総合エネルギー企業エンロンの不正問題で、アメリカ流の経済システム全体への疑念が生じた。また、ブッシュ政権の極端に内向きな姿勢は、9.11の悲劇の一因となった。事件の直後にはテロ勢力への対抗という命題で、国際社会でのアメリカの求心力は一時的に高まったものの、アフガニスタンとイラクでの戦争を経て、アメリカの威信は急速に失墜していった。
この流れの背景としては、着々と統合を進めてきたヨーロッパの存在感の高まりも見逃せない。EUは、共通通貨「ユーロ」の導入という難事業を成功させ、一体的な経済圏としての姿を明確にした。エンロンの破綻は、アメリカ式とは違うヨーロッパ流の経済システム、社会システムの意義を再認識させたし、イラク戦争をめぐっては、アメリカの独走に異を唱え続けた。
とは言っても、これからアメリカが衰退していくということではないし、ヨーロッパがアメリカを凌駕していくということでもない。冷戦時代のような明確なイデオロギー対立の時代でもない。むしろ、キリスト教、民主主義、資本主義という共通の基盤を持った2つの極が協調し、時には牽制しあいながら併存する時代へ向かっているというのが、2003年の世界の現状だと言えるだろう。
二極時代の世界地図
こうした状況は世界地図の描き方で表してみるとクリアになるかもしれない。使われる地域によって世界地図の形が違うというのは、よく知られた話だが、時代によっても世界地図の形は変わってくる。
例えば、二つの超大国が冷戦を繰り広げていた時代、第二次世界大戦後から80年代までの世界を表すには、北極海を挟んでアメリカとソ連が向かい合った構図がぴったりくる。この時代に国際政治の舞台として創設された国連のマークも、まさにこの形の世界地図を図案化したものだ。
この時代からアメリカ一極時代を経て、二極時代へと向かう2003年現在の世界地図としては、大西洋を挟んでアメリカとヨーロッパが向かい合う構図がふさわしい。政治情勢にしたがってデフォルメすれば、イラク戦争でアメリカを支持したイギリスやスペインは、大西洋の真ん中近くまで突き出して描かれることになるだろう。
地図の右側、EUの背後には、2004年の新規加盟を予定している10か国が控えている。さらにその先には、ロシア、ウクライナをはじめとする旧ソ連圏諸国があり、南にはかつての植民地で経済的にもつながりの深いアフリカ諸国が潜在的なユーロ経済圏として存在している。
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