2004年の半ばあたりから本格的になってきた原油価格の上昇は、05年に入ってさらに勢いを増した。日本が輸入する原油の平均価格は1バレル(159リットル)あたり60ドルに迫っている(下図参照)。
原油価格の高騰というと、思い浮かぶのは1974年の第1次、79年の第2次の2回にわたる石油危機だろう。とくに、不意を突かれた第1次石油危機の際には、多くの消費者がトイレットペーパーなどの消耗品の買い占めに走るなど、日本の経済、社会は大混乱に陥った。
今回の上昇局面での価格水準は、70年代の石油危機の際の価格を大幅に上回っており、第3次石油危機を懸念する声も上がっていた。しかし、過去の原油価格を現在の物価水準と為替レートに置きなおした実質価格でみると、近時の原油価格は、第2次石油危機の水準には及んでいない(下図参照)。加えて、企業や消費者の経済水準が大幅に向上したことで、原油価格の上昇に対する耐性は、石油危機当時と比べて格段に強まってもいる。
そのため、これまでのところ、原油価格高騰の日本経済への悪影響は局所的なものにとどまっている。今後に関しても、原油価格の動向にもよるが、第3次石油危機と呼べるほどの衝撃が日本を襲う可能性は大きくはないといえるだろう。
ただし、原油価格の水準自体は、上がり過ぎた分の調整はあるとしても、当面は高水準での推移が続く可能性が高い。それは、価格高騰の要因が、70年代の石油危機とは決定的に異なっているためだ。過去の石油危機は、いずれも、石油の大産地である中東地域の政治的な混乱という供給側の一時的な要因で発生し、その制約要因が解消されるとともに、原油価格は下落に転じた。
それに対して今回の原油価格の高騰は、世界経済の堅調な成長にともなう石油消費量の増大という、需要側の構造的な要因で生じたものである。その過程では、米国経済の活況に加えて、中国、インドの両人口大国が、いよいよ本格的な経済発展を開始してきたことの影響が大きい。その状況は、今後もしばらくは続いていく可能性が高い。
人口大国の成長にともなう価格上昇圧力は、原油に限らず、他のエネルギーや鉱産資源、食料、水など、さまざまな物資に及んでいくものと考えられる。それは、企業にとってはコストアップ要因として効いてくる。
06年に入って、日本経済はデフレ局面からの脱却が視野に入ってきているが、企業のコストアップ分を容易に消費者に転嫁できる状況ではない。第1次石油危機の際のような混乱状態にはならないまでも、企業としての体力と対応力が、一層厳しく試される局面は、覚悟しておく必要があるだろう。
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