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三井物産戦略研究所WEBレポート
2008年12月12日アップ
2009年の世界経済展望−危機下で進む新秩序の模索−
 トピックス:金融危機と時代潮流

 2008年前半には、G8洞爺湖サミットでの主要議題に象徴されているように、資源・環境問題や、アフリカをはじめとする貧困問題など、世界が直面する中長期的な重要課題への国際的な対応についての議論が高まった。しかし、そうした動きは、年後半には金融危機の深刻化を受けて、いささか影が薄くなった感が強い。また、世界経済における中長期的なトレンドと位置付けられてきたグローバル化や産業再編などの潮流も、金融危機の影響で、ペースや方向性に変化が生じている。
 とはいえ、それらの重要課題や潮流が、これからの世界の動きを展望するうえで重要な切り口であることに変わりはない。また、それらが加速したり融合したりすることで、経済の新たなダイナミズムが生じることも考えられる。以下ではそうした重要課題や時代潮流について、金融危機の影響を踏まえて、今後の動きを展望してみたい。


経済のグローバル化の拡大と深化

 冷戦が終結した1990年代以降、貿易や国境をまたいだ経済活動、投資活動が急速に拡大したことに加え、それに後押しされる形で中国やインドをはじめとする新興国の経済発展が本格化したことで、経済はグローバル化を遂げてきた。その過程では、経済が成熟した先進国が新興国の発展に手を貸し、それと引き換えに新興国の活力を先進国の企業がダイナミズムの源泉とする“win-win”の関係が構築されてきた。
 このグローバル化の潮流は、今後も一段と広がっていくことが見込まれる。アフリカ諸国など、まだ経済発展を本格化させていない国・地域を国際的な分業の枠組みに引き入れ、世界に残る貧困の解消を進めるとともに、経済のグローバル化による“win-win”の関係を拡大、深化させていく流れへの期待もある。
 ただ、これまでのグローバル化の過程では、先進国から新興国への投資の拡大をはじめ、金融産業が果たしてきた役割が大きかった。しかし、今回の金融危機を経て、金融産業の活動への規制が強化されると、グローバル化の大きな原動力の一つが大幅にパワーダウンすることになり、グローバル化の潮流は減速を余儀なくされるだろう。
 また、経済のグローバル化は、経済発展を本格化させた新興国と先進国の間の経済格差を縮小させてきた。しかし、先進国の内部では、新興国の低廉な労働力の活用や新たな市場開拓に力を発揮した大企業の経営者や金融産業の幹部職員が巨額の収入を得るようになった一方で、新興国の低廉な労働力や安価な商品との競合を余儀なくされた一般の労働者や中小企業の経営者は所得を抑えられ、格差が大幅に拡大した。新興国においても、産業の発展に乗れた人と乗り遅れた人の間で格差が拡大している。さらに、社会制度の不備や政情不安などのために、経済発展のプロセスに入れていない国も数多く残されており、それらの国々と先進国、新興国の間の格差も拡大してきている。このようなさまざまな次元での格差の拡大によって、多くの国で社会不安が生じている。インターネットの普及によって、そうした現実を認識されやすくなっている面もある。世界中でテロや政府に対する抗議活動が増えているのも、経済発展から取り残された人々の閉塞感が、原動力になっているものと考えられる。今後は、ペースは鈍ってもグローバル化の潮流は継続し、当面はそのなかで世界的に経済環境が悪化していくことが予想され、各地で社会不安が強まる可能性も高まってきている。

関連レポート
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 (The World Compass 2009年2月号掲載)
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■「豊かさ」と「活力」と−成熟化経済と人口大国の行方−
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資源・環境問題への対応

 経済のグローバル化にともなって人口大国の経済発展が本格化したことで、エネルギーや食糧など種々の資源の供給不安と、地球規模の環境問題が拡大してきた。資源の供給不安は価格高騰につながり各種資源の効率的な利用と消費抑制をうながす構図が成立した。他方、環境問題では京都議定書に基づく温室効果ガス排出削減に向けた動きがスタートしている。さらに、京都議定書の対象期間以後の排出削減の枠組みについても、2008年7月に開催されたG8洞爺湖サミットで主要テーマとして取り上げられたことにも象徴されるように、京都議定書では削減義務を負っていない新興国や加盟から脱退した米国をも巻き込んで、国際的な議論が高まっている。世界各地で異常気象による旱魃や水害が相次いだことが、気候変動の発生を想起させたことで、環境問題に対する人々の認識を高めた面もある。
 そうした動きにも、金融危機によってブレーキが掛かってきている。金融市場の混乱と経済の不振が長期化する可能性があるとの見方が強まったことから、原油をはじめとする資源価格が急速に下落したことで、省資源化や省エネルギー、代替エネルギーの開発に向けたモティベーションが後退する可能性が生じている。しかも、今後再び価格が上昇した場合にも、今回の経験で価格低下のリスクがあると認識されることで、企業や消費者の各種の取り組みを躊躇させることにもなりかねない。
 環境問題においても、各国政府が金融危機への対応に追われることで、温暖化ガス排出規制をはじめとする環境関連の国際的な枠組みの構築が先延ばしになる可能性が生じている。資源と環境の問題への対応は、引き続き世界の将来にとっての最重要課題であることは間違いないが、今回の金融危機は、それに水を差す形になっている。

関連レポート
■低炭素化のリアリティ−資源と環境、二つの難題への共通解−
 (The World Compass 2008年9月号掲載)


産業セクターにおける上位集中の趨勢

 日本や米国、欧州諸国などの経済が成熟した国・地域を中心に、多くの産業で国境をまたいだ業界再編の動きが加速し、市場シェアや売上げが上位企業に集約されていく傾向が生じている。成熟して成長ペースが鈍った市場で他社との競合を勝ち抜けるのは、何らかの大きな優位性を持つ有力企業に限られる。そこでは、それがすべてではないにしても、コスト競争力やリスクを取るための財務的な体力などの点で、企業規模が大きな武器となる。そのため、市場の成熟にともなって、多くの産業で、上位企業が下位企業を駆逐するか吸収する形での上位集中の趨勢が強まってきている。
 日本においても、2006年頃から国内外のファンドや大手企業が企業買収を積極化させたのは、上位集中の潮流を見越してのことであった。07年後半以降は金融市場の混乱にともなってファンドの動きは鈍ったものの、金融危機が深刻化したことで、事業基盤が脆弱になっていた下位企業が行き詰まったり、救済合併が相次いだりという形で、上位集中の流れは続いている。信用収縮の影響が比較的軽微にとどまっている日本企業が内外の企業の買収を模索する動きも見られる。
 上位企業への集中傾向は、今後、金融危機が終息に向かうことで、一段と鮮明になるものと考えられる。その動きは、生産活動の全般的な効率化や企業セクター全体としてのリスク負担力向上につながることが期待される。その流れにどのように対応していくのかは、これからの企業経営において、最も重要な課題の一つとなるだろう。

関連レポート
■日本産業の方向性−集中と拡散がうながす経済の活性化−
 (The World Compass 2008年2月号掲載)
■王者の時代−「普通」の企業に生き残る道はあるのか?!−
 (ダイヤモンド・ホームセンター 2007年10-11月号)
■企業による企業の買収−低成長経済下の企業の成長戦略−
 (読売ADリポートojo 2006年10月号掲載)


新市場創出の原動力となるマイクロビジネスの叢生

 経済が成熟した国・地域を中心に、小企業や個人企業、さらには小規模なNPOを含む無数のマイクロビジネスが叢生することで新たな市場が創出される展開が期待されている。技術的、あるいは制度的な障害を乗り越えるブレークスルーへの挑戦や、消費者の潜在的なニーズを模索していくうえでは、機動力のある小規模なベンチャー企業、あるいは熱意と企業マインドを持った個人にも大いにチャンスがある。また、パブリック・ニーズへの対応では、小規模なNPOが事業主体となるケースが増えていくことが期待される。
 ただ、マイクロビジネスの立ち上げ、運営は、大企業の事業展開に比べてリスクが大きく、リスクを処理する金融産業のサポートが不可欠である。今回の金融危機を経て、金融産業の活動が制限され、経済全体としてのリスク負担が限定されてくると、マイクロビジネスの展開は大きな制約を受けることになる可能性が高いものと考えられる。

関連レポート
■日本産業の方向性−集中と拡散がうながす経済の活性化−
 (The World Compass 2008年2月号掲載)


総論
■2009年の世界経済展望−危機下で進む新秩序の模索−
トピックス
■2009年の米国経済


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