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日本317万円、米国343万円。2002年の人口1人あたり可処分所得の値である(米国の値は同年末の為替レート125.3円で換算したもの)。この比較は、為替次第で変わってくるが、いずれも世界有数の「豊かな国」であることは間違いない。ただし、それはあくまでも平均値で見ての話だ。消費市場として見ると、両国の間には大きな違いがある。
違いが際立っているのは、米国には低所得者層を中心に、満たされていない切実なニーズが、相当程度残されているということだ。潜在的な消費ニーズの貯水池とも言うべき貧困者の総数は02年時点で3,457万人。総人口の約12%を占めている(下図)。彼らは、さまざまな商品や住宅に対して、潜在的ではあるが切実なニーズを抱えている。それらは、所得の増加、金利の低下、価格の引き下げといった要因で容易に顕在化する。ITバブルの崩壊や9.11のテロ、イラク戦争と、経済を揺るがす事件が相次いだ時期に、米国が極端な不況に陥らずにすんだのも、90年代後半の好況期に貧困状態を抜け出した層の旺盛な消費需要が下支えとなっていたためだと考えられる。
「貧困」は、人道的な観点からはもちろん、治安の悪化や都市のスラム化の要因としても、解消していくべき問題であることは間違いないが、その一方で、経済の活力源という見方もできるわけだ。
「移民国家」として成立した米国は、今日でも貧しい国からの移民を受け入れ続けている。そのために、経済が発展しても貧困者はなかなか減らない構図になっているのだが、それは一方で、「活力源としての貧困」を輸入することで、経済を活性化させ続ける構造でもある。02年までの10年間に米国が受け入れた移民の数は842万人にのぼっている。統計外の不法移民も毎年数十万人規模で流入し、不法滞在者の総数は800万人から1,400万人と推定されている。
貧困層や低所得層の需要は、「作れば売れる」、あるいは「安ければ売れる」、比較的単純な市場を形成しやすい。現在の日本ではほとんど失われてしまったタイプの市場である。そうした市場がどれだけ残されているかは、小売の経営環境を決定的に左右する。かつて日本の小売産業は、米国の企業や店舗を手本に出発した。しかし、消費市場がまったく異質なものとなった今、米国で進化したビジネスモデルが、日本で無条件に通用するとは考えにくい。これからの日本の小売企業には、独自の進化が求められる。
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米国の貧困者数と貧困者比率の推移 |
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米国の統計における「貧困」の基準は、市民としての最低限の生活を衣食住などの分野ごとにモデル化することで、毎年、世帯構成別に細かく定義されている。02年の例では、65歳以下の単身者9,359ドル、子供2人の4人家族18,244ドル等となっている。貧困に関して、ここまで詳細な統計を整備しているのは米国だけである。
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