日本の消費市場が停滞を続けるなか、巨大なポテンシャルを有する新興国のマーケットへの注目が一段と高まっている。自動車や家電などの輸出産業はもちろん、従来は内需型産業の典型と位置付けられていた小売業や外食産業でも、新興国でチェーン展開を進める動きが加速してきている。
とはいえ、生活習慣や価値観、テイスト、文化的・宗教的な制約、気候条件など、多くの面で日本と異なる国々での展開は決して容易なことではない。新興国市場で成功を収めるには、それらの要素を国や地方ごとにきめ細かく把握して、戦略を練り上げていくことが必要だ。
とくに、展開地域の所得水準は、そこで売れる商品の価格帯や展開すべき業態の大きな制約条件となる。一つの物差しとして、日本の所得水準の推移を、2009年の貨幣価値と為替レートで置き換えた実質ベースの一人当たりGDPの水準で見てみよう。日本の社会が大量生産と大量消費を背景に年10%ペースの成長を続けた「高度成長期」に差し掛かった1955年には、実質ベースの一人当たりGDPは4,154ドルであった(当時の貨幣価値と為替レートで換算した名目値では263ドル)。そして、GMSが急速に台頭しはじめた1965年には8,868ドル、高度成長期を抜けてコンビニやファミレス、ファストフードが成長をはじめた1975年には16,375ドル、バブル期のブームを抜けた1990年には28,910ドルにまで上昇し、直近の2009年には32,817ドルとなっている。
これとの比較で、2009年時点の主要な新興国の一人当たりGDPを、各国の物価水準を勘案して調整した購買力平価(PPP)ベースの値で見てみると、3,000ドル弱のインドは日本で言えば高度成長期に入る以前の水準だが、最大の注目株である中国は6,000ドル台、インドネシアが4,000ドル台と日本の高度成長期の序盤並みであり、ロシアやブラジル、メキシコ、トルコといった国々になると、いずれも1万ドルを超え、既に日本の高度成長期終盤の水準に達している。一口に新興国といっても、相当な幅があるということだ。さらに、これらの大国では、国内の地域によっても経済水準が大きく異なっており、複数の階層を対象として規模感のある市場を想定することができる。
これは、新興国での事業展開においては、提供する商品やサービス、業態と地域特性のマッチングがきわめて重要な意味を持っていると同時に、マッチングが的確であれば、さまざまな商品、サービス、業態にチャンスがあるということを意味している。新興国市場での事業展開は、国内市場が成熟した日本の企業の多くにとって、これからの成長戦略を描くうえでの重要なオプションであることは間違いないだろう。
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