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ビジネス・サポート(東京商工リサーチ発行)
2009年5月号掲載
世界経済と為替市場に振り回される日本経済

円高が増幅した日本の景気悪化

 2008年来の金融危機は、世界のほぼすべての地域の経済を危機的な状況に陥れた。日本については、当初はサブプライム関連の損失が小さく比較的健全だと考えられていたが、実際には、輸出の急減に見舞われ、生産活動はサブプライムに直撃された米国や欧州諸国以上に減退した。
 日本の景気が極端に落ち込んだのは、世界的に落ち込みが激しい自動車や設備機械と、それらの部品、素材を輸出の主力としていることに加えて、経済が他の国・地域に比べて健全だと見られたことで、円が独歩高になったことも効いている。
 近年の日本経済は、内需が伸び悩みながらも安定していたため、景気の浮き沈みは自動車や機械など輸出主導型の産業の動向に左右される傾向が強い。今回の金融危機は、それらの産業を、世界全体での需要の減退と、円高にともなう輸出と海外事業の収益性の悪化という形で直撃したのである。

円・ドルレートの推移
  • 各月、月中平均の値(2009年4月は10日までの平均値)


日本経済回復のシナリオ

 今後の世界経済の展開を考えると、民間の需要が自律的に回復したり、金融機関の自助努力で金融システムが健全化したりする流れは考え難く、各国の政策対応に期待せざるを得ない。既に、危機の震源である米国では景気刺激策や金融安定化策が相次いで決定し、実行に移されてきている。中国政府が打ち出した4兆元の景気刺激策も、インフラ関連需要の拡大などの形で効果を現しつつある。それらをはじめとする世界経済の回復の恩恵で、外需に左右される日本の景気も、まだ曲折はあろうが、2009年後半に向けて底入れ感が明確になっていくことが期待できる。
 もう一つのポイントである為替レートについては、日本経済の健全性に関する過大評価が、実体経済の悪化にともなって剥落したことで、2月に入って円安方向への修正が進んだ。このことも、日本の景気回復への追い風となるだろう。今後に関しては、日本が世界全体の回復に遅れをとるようであれば、日本経済への評価の低下から円安が進み、それが回復を後押しすることが期待できる。逆に、日本の回復が突出するような場合には再び円高が加速し、回復に水を差すことが想定される。要するに、日本の回復ペースは、為替の変動によって、世界全体の回復並みに調整されてしまう可能性が高いということだ。


中長期的には内需開拓が課題に

 このように、世界経済の動向と為替市場に振り回される構図は、付加価値の高い商品の輸出に依存する日本経済にとっては、避け難い宿命のようなものといえる。その度合いをいくらかでも薄めるには、飽和しつつある国内市場に残されている未充足なニーズを顕在化させ、内需の成長力を高めていくほかにない。
 そのためには、日本企業には、安全や健康、環境など、未充足なニーズの存在が明白な領域を中心に、技術的あるいは制度的なブレイクスルーを目指していける創造性と積極性、政府にはそれを支える公的金融などの産業基盤の拡充が求められる。それは、今回の危機からの脱却には間に合いそうもないが、日本が抱える中長期的な課題といえるだろう。


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