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西暦2000年、千年紀、ミレニアム。そんな言葉が飛び交い、いやが応でも新時代の到来をイメージしてしまうが、日本経済は、苦しかった1990年代に別れを告げて、明るい新時代を迎えることができるのだろうか。
苦闘の構図
90年代初頭に日本を見舞った「バブル崩壊」。地価と株価の下落は、急激に死に至る病ではなかったが、その意味するところを見誤り、適切な対応ができなかったため、日本経済は10年近くにわたって活力を失ってしまった。
今の時点で改めて振り返ってみると、バブル崩壊後の不況は、普通の不況、つまり単なる需要後退ではなかった。需要後退に資産価格下落、信用収縮を加えた三つのシュリンク(縮小)現象が相互に増幅しあってスパイラル的に進行していく、きわめて困難な状況だったのである。これは、「トリプル・スパイラル」とでも呼べる構造だ(図参照)。
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トリプル・スパイラルの構図 |
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その発端はいうまでもなく資産価格の下落。ピークからの下落幅は、93年までの間に、株、土地とも約500兆円、合計で1,000兆円近くにも達した。これは、当時のGDP(国内総生産)の約2倍に相当する額である。資産価格の下落は、消費意欲、投資意欲を冷え込ませ、需要は一気に後退に転じた。また、大多数の銀行が、不動産を担保としていた融資の焦げ付きと株式の含み益の減少で自己資本に癒しがたい傷を負い、貸し出しを拡大する力を失ってしまった。需要後退は、企業収益の悪化などを通じて、資産価格下落と信用収縮を一段と加速させた。同時に、銀行の貸し出しの圧縮、すなわち信用収縮は、資金面での制約をきつくすることで、さらなる需要後退と資産価格下落をもたらしたのである。
こうした仕組みの下では、三つのシュリンクのどれか一つを抑えても、他の二つの影響を受けて、再び縮小に向かってしまう。にもかかわらず、政府は、従来と同様、金利引き下げや財政拡大といった需要刺激策を繰り返すばかりであった。しかし、それだけでは資産価格下落と信用収縮に歯止めが掛からず、本格的な回復には結びつかなかった。これが、10年にも及ぶ長い苦闘の構図である。
最悪期を抜け、五分の状況へ
その後96年には、信用収縮の圧力がいくらか弱まり、需要も回復に向かっていた。しかし、その上昇力を過信した政府は、財政再建を優先して、消費税率の引き上げをはじめ、需要回復の腰を折る政策を採ってしまった。それが、トリプル・シュリンクのメカニズムを再び起動させたのである。
深刻さを増した信用収縮の脅威は、一般企業だけでなく、資産価格下落で傷を負った金融機関にも襲いかかり、97年11月には大手金融機関が相次いで破綻した。不安を募らせた人々は預金を引き出した。その結果、多くの金融機関が資金不足を恐れて急速に貸出を圧縮したため、金融システム全体が機能停止寸前の状態となった。その急場は、預金は全額保護するという政策(ペイオフの凍結)を打ち出すことで、なんとか切り抜けることができたが、需要は急激に後退し、日本経済は戦後最悪の事態に陥ってしまった。
その後の政策対応ももたつき、97年から98年にかけて、さらに多くの企業、金融機関が破綻の憂き目をみた。その挙句、99年に入ってようやく、銀行への本格的な公的資金注入が実施され、トータルで約10兆円が銀行の自己資本に注入された。あまりに遅い対応ではあったが、最悪の局面を経たことで、日本経済はようやくバブルの後遺症を抜け出すプロセスに入ったのである。
2000年初頭の戦況は、三つのシュリンクそれぞれの戦線で、ようやく五分の状況に押し戻してきたところといえるだろう。GDPの成長率はプラスに転じ、株価は上昇基調にある。大手銀行は公的資金注入と大型の合併・再編で体制を整え、信用収縮に終止符を打とうとしている。しかし、油断は禁物。97年の政策ミスを繰り返せば、再びトリプル・スパイラルに陥ってしまうだろう。
脱出を目指して
90年代の苦境から確実に抜け出すためには、第一に、もろくて弱い需要回復の芽を確実に育ててやる政策が必要だ。国債残高の累増を問題視する意見もあるが、今の時点で財政再建を目指すのは時期尚早だ。また、信用収縮の戦線が好転しているとはいっても、今のように何の備えもない状態でペイオフ解禁に踏み切るのは危険だ。ペイオフ解禁の延期が決まったが、それは、最善ではないにしても、仕方のない選択だったといえるだろう。
こう考えてくると、日本経済は、今がまさに正念場だ。明るい新時代を迎えられるかは、予断を許さない。いつまでも財政を拡大し続けることはできないし、ペイオフ解禁を延期し続けることもできない。では、どうするか。そのあたりは、稿を改めて、おいおい考えていくことにしよう。
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