今年の春ごろから景気は回復に向かっている、というのが大方のエコノミストの判断である。ところがビジネスの現場では「ちっとも良くなんかなっていない」という声が強い。これはどういうことなのだろうか。
景気の基準は需要拡大のペース
「景気」とは、経済の調子の良し悪しのことだが、生活とか消費の様子というよりは、企業活動とか仕事の視点に立った概念だ。そのため、景気判断では、需要が順調に拡大しているかどうかが、もっとも重要なポイントとされてきた。
需要が拡大していれば、企業は売り上げを伸ばして利益を拡大しやすい。働いている一人一人にとっても、ノルマの達成も新規顧客の開拓も容易になる。逆に需要拡大が鈍れば、企業活動は後ろ向きにならざるを得ない。ノルマの達成は難しくなり仕事が面白くなくなる。
景気判断が需要の拡大ペースに左右されるのは、エコノミストもビジネスマンも同様である。エコノミストの観測と現場での実感にズレが生じるのは、両者の間に、方向を見るか水準を見るかという基本的な違いがあるためだ。
実感のない景気回復
左ページの図は、時間とともに良くなったり悪くなったりする景気の動きを模式的に表したものだ。現場の実感は、その時点で景気がどの水準にあるかに左右される。つまり、景気がある程度の水準に達するまでは、景気回復は実感されない。
それに対して、エコノミストの判断は、上向きから下向き、あるいは下向きから上向きに、方向転換するポイント(たとえば図のA点)を重視する。ただ、彼らは統計データを重視するため、景気の回復を確認するまでには、実際の転換点から少なくとも半年程度は遅れる。その間、景気が順調に改善を続けていれば、エコノミストが「回復」と判断するころには、現場でも回復の実感が生まれていることになる。
図でいえば、Bの時点で、エコノミストはAの時点のデータをもとに回復を宣言し、ビジネスマンはリアルタイムのB時点の状況として回復を実感するという具合だ。
かつては、こういう形で、エコノミストの判断と現場の実感のズレは目立たなかった。ところが今回の回復局面では、転換点を過ぎた後の改善幅がきわめて小さいため、エコノミストの判断と現場の実感に、ズレが生じてしまったのである(図のC点)。
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