総じて不振が伝えられる小売業であるが、順調に業績をあげている企業も少なくない。その主因は、企業ごとの優れた戦略にあることは間違いないが、業態や取り扱っている商品カテゴリーによって、何らかの傾向はないのだろうか。
下図は、99年度の小売各社(図注参照)の売上高経常利益率と売上高成長率を、業態ごとに単純平均して、縦軸に利益率、横軸に成長率をとったグラフ上にプロットしたものである。図の右上方は高成長・高収益の好調な状態、逆に、左下方は低成長・低収益の不振な状態を意味している。
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小売企業の業態別経営状況(1999年度) |
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- 日経流通新聞による調査のデータより作成
- 1999年度の売上高が100億円超で、成長率、利益率のデータが揃う企業を対象とした。
- ただし、百貨店は500億円超、SMは400億円超、コンビニは1,000億円超(FCを含む)とした。
- 業種のデータは、各社データの単純平均
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図を見てまず気づくのは、ユニクロ(ファーストリテイリング)に代表されるカジュアル衣料、およびドラッグストアの突出した好調ぶりと、百貨店、GMSの不振という極端な対照であろう。90年代に入って衣料品の消費が大幅に縮小したことが百貨店、GMSの不振の一因とされてきたが、カジュアル衣料専門店の好調という事実からは、市場の問題以上に、業態としての競争力低下の問題が深刻であることがうかがえる。
それらの業態を除いてみると、全体に右下がりの分布を示していることに気付く。成長性の高い総合DS、家電・カメラ、コンビニ、ホームセンターは比較的収益性が低く、収益性の高い呉服、紳士服、婦人服・子供服は成長性が低くなっている。これは、業態のライフサイクルによるものと考えられる。
成長途上にある業態では、新規参入や新規出店が活発で企業間の競争も激しく、なかなか収益性を確保できない。その後、市場の成長性が落ちてくると、競争が落ち着くことや、業態としての成熟期を迎えることになる。成熟業態では、低成長ながら、それまでの競争の過程で収益性の低い企業が淘汰されていることもあり、収益性の平均値は高目になる。
そして、ライフサイクルの最終段階では、確保していた市場に新しいスタイルの競合相手が現れ、成長性、収益性ともに失っていくことになる。ユニクロなどの新興勢力に圧倒されつつある百貨店、GMSは、今まさにそういう状況だといえるだろう。
資本主義の原則からいえば、企業は、衰退期の業態からは速やかに撤退し、投入していた人材、店舗といった経営資源を新たなビジネスへ回す必要がある。既に、新業態開発に向けた試行錯誤は、過去十数年にわたって続けられてきた。にもかかわらず、未だに答えを出せていないことが、現在の業績低迷という結果につながっているわけだ。
新業態への転換による百貨店、GMSの再生は、消費市場の活性化にとどまらず、不良債権に押し潰されつつある金融システムの再生にもつながる。その動向は、日本経済最大の注目点の一つといっても言い過ぎではない。
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