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チェーンストアエイジ 2002年9月1日号掲載
特集:日本のチェーンストア1000社ランキング巻頭レポート
日本の小売市場動向−90年代を通じ大型総合業態は低迷し、専門業態が台頭−

 90年代初頭、バブル崩壊と大店法緩和という二つの衝撃が日本の小売産業を襲った。それらは、長期にわたる消費の低迷、チェーン店間競合の本格化という潮流を生み、小売企業の事業環境を一変させてしまった。


物販のマイナス成長と泥沼の価格競争

 GDP統計で見ると、消費の伸びは、バブル崩壊の影響が鮮明になりはじめた1992年頃から一気に鈍化している。それでも97年までは前年比プラスを維持していたが、98年以降はほぼ頭打ちで、物販に限れば年々3%近いマイナスが続いている。2000年の物販総額はピークであった97年の値を8%下回る水準まで落ち込んでいる(下図参照)。

個人消費の動向
  • 出所:国民経済計算年報(内閣府)
  • 暦年ベースの名目個人消費を物販とサービスに分けたデータ

 他方、大店法緩和の影響で、90年代には大規模店舗が急増した。商業販売統計でみると、2001年末の大規模店舗の総売場面積は、緩和直前の91年に比べて約1.6倍にも拡大している。加えて、紳士服チェーンや家電量販店などの専門特化型業態の新興企業が、低価格を武器に急成長を遂げた。「価格破壊」という言葉が流行した時期である。新興企業が火をつけた価格競争は、やがて既存の大手企業をも巻き込み、利益を犠牲にした泥沼の消耗戦となっていった。その結果、小売業の利益水準はかつてないほどの低迷を続けている。
 チェーンストアのランキングはここ数年で大きく様変わりしたが、それは、こうした事業環境の激変の結果と理解できる。
 カテゴリーキラーと呼ばれるさまざまな専門特化型業態が、新たな環境のもとで台頭した一方で、かつての主役であった大型総合業態、GMSは危機的な状況に陥った。マイカル、長崎屋、寿屋などはランキングから姿を消した。長らく売上首位の座にあったダイエーは、その地位をセブン−イレブンに譲っただけでなく、金融機関主導で店舗閉鎖による縮小均衡を余儀なくされている。西友もウォルマートの傘下での大幅な事業リストラに踏み切ろうとしている。


総合業態の淘汰と専門業態の多様化が進む

 GMSに代表される大型の総合業態は、競争が緩やかで、消費市場も拡大していた80年代までの環境に最も適応した業態であった。しかし厳しい競争環境下では、自社固有の商品による差別化ができない企業は消耗戦的な価格競争に巻き込まれやすい。総合業態の場合には、幅広い品揃えが必要なため、固有の商品で売場をカバーすることが難しい。GMSの低迷は、激しい価格競争の必然的な帰結と捉えられる。
 GMSの低迷で、日本の小売業界は、コンビニ、食品スーパー、家電量販店をはじめとする専門特化型業態が上位を占める構造に変化しつつある。ただ、生鮮食品を主力とする食品スーパーの場合は、供給者と消費者双方の地域性のため、地域ごとの群雄割拠の状態にあり、ランキング上位への進出には限界がある。
 海外の状況を見てみると、独や仏では、商業規制が厳しいために競争が緩やかで、ハイパーマーケットやC&C(キャッシュ&キャリー)などの大型総合業態の企業が複数並存し、小売の主役を担っている。それに対して、英・米では規制が緩やかで競争が厳しいため、大型総合業態は価格競争力の強いごく少数の企業だけが生き残り、その一方で多彩な専門特化型業態が成長している。ワンストップショッピングの利便性は、専門特化型業態を集めたSCやモールが提供する形だ。
 90年代に進行した日本の小売業界の構造変化は、独・仏型から英・米型への移行と捉えられる。その視点で今後の展開を見通せば、多彩な専門特化型業態の成長が予想できる。彼らには、空洞化が著しく進んだ中心市街地の商業機能の回復に加え、閉店した百貨店やGMSの跡を埋めていくことも期待される。日本の小売産業は、そうした勢力によって、新しい時代へ踏み出すことになるだろう。


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