日本の産業は、卸小売業を含むサービス産業を中心に、欧米諸国に比べて労働生産性が低いと言われることが多い。実際、日米の2006年のGDP統計から両国の労働生産性を計算してみると、下表のとおり、同年中の平均為替レート(1ドル=116円)でドル換算した日本の労働生産性は、対米国比で0.76倍と、米国を大幅に下回る水準になっている。ただ、同様の計算を2000年のデータで行ってみると、日本の労働生産性の対米国比は1.06倍と、日本が米国を上回っていたという結果が得られる。
この結果をそのまま受け止めると、2000年から2006年までの間に、日米のいずれか、あるいは双方で生産効率の大幅な変動があったように見える。しかし実際には、そのような大きな変化が生じたとは考え難い。そうなると、両国の物価上昇率の差と為替レートの変動が影響している可能性が想起される。そこで、両国の物価上昇率の差と為替レートの変動の影響を取り除くため、購買力平価の考え方で求めた各年の為替レートの理論値(2006年時点で1ドル=89円)を用いて換算し直してみると、日本の労働生産性の対米国比は1998年から2006年まで、1.01倍から0.99倍の間で安定的に推移しているという結果が得られる。
この結果から見ると、この間の日米両国の実質的な労働生産性はほぼ等しい状況が続いていたという結論になる。言い換えると、2006年の日米の労働生産性に大きな差が生じているのは、日本の超低金利を背景とする極端な円安によるものであり、労働生産性の低下という表現から思い浮かぶような、生産活動の効率の大幅な低下が生じているわけではないということだ。
次に、日本の産業別の労働生産性を見ると、卸小売業と狭義サービス業は、全産業平均を100とした指数で、それぞれ78.6、60.6と、いずれも大幅に低い値となっている。ただ、これも対米国比の値で見てみると、製造業の1.00倍(円・ドルの換算に理論値を使用したベース)に対して、卸小売業が0.97倍、狭義のサービス業が0.93倍と若干低いものの、その差は極端に大きなものとはなっていない。そこから考えると、労働生産性の業種間の格差は、いわゆる労働集約的な産業か資本集約的な産業かの違い、すなわち、それぞれの生産活動における人手による労働から資本設備の利用への置き換えの容易さを反映したものと言えそうだ。
こうしたデータから見て、為替レートの変動の影響を取り除けば、日本の労働生産性は米国に対して、必ずしも大きく劣後しているわけではなさそうだ。卸小売業に限ってみても同じことが言える。このことは、日本や米国、欧州のような先進国の成熟した市場においては、経済発展や企業間競争に向けた焦点は、既に、生産活動の効率性という意味での生産性から、新たな市場の開拓や、商品・サービスの高付加価値化に必要な「創造性」へ移行していることの証左の一つと言えるのではないだろうか。
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