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読売ADリポートojo 2005年11月号掲載
連載「経済を読み解く」第62回
産業としてのプロ野球−ビジネスの視点からの再検討−

 この号が発行されるころには日本シリーズも決着して、2005年のプロ野球シーズンは終了していることだろう。しかし、昨年に続き今年のオフも、大きな衝撃が球界を揺るがしている。昨年は近鉄とオリックスの合併問題から楽天とライブドアの参入をめぐる騒動。今年は「村上ファンド」による阪神球団の株式上場提案をめぐる議論。これらに共通するのは、プロ野球チームの現状を、産業やビジネスの視点から問い直す動きだということである。


赤字でも取り組む意味

 近鉄とオリックスの合併が話題になった際に改めて認識されたのは、多くの球団が実質的には赤字経営の状態で、それを親会社の支援でカバーする形で運営されているという事実であった。近鉄の場合には年に数十億円といわれるその負担に耐えられなくなったわけだが、これは近鉄だけの問題ではない。株式市場と投資家が企業を厳しくチェックする現代にあっては、すべての赤字球団の親会社が、その費用負担が企業経営上正当なものである根拠を明確に示す必要に迫られている。
 親会社が相応の費用を負担してまで赤字のプロ球団を運営しているのは、その広告・宣伝効果を狙ってのことである場合が多い。社名を冠したチームが連日新聞やテレビに取り上げられることで、親会社に対する社会一般の認知度や好感度が高まることが期待できる。
 そうした効果が費用に見合うかどうかということになるわけだが、たとえばトヨタ自動車や松下電器のように、誰でも知っている大企業であれば、認知度を上げる意味合いはあまりない。逆に、まだ認知度の低い若い企業にとっては、プロ球団を持つことで、大きな効果が期待できる。かつてのオリックスもそうだったし、昨年プロ野球参入に手を挙げた楽天、ソフトバンク、ライブドアは、まさにその典型だ。
 楽天は認知度の向上に加えて、本業の通販サイトで試合結果と連動させた企画を展開するなど、球団を大いに活用したようだ。また、結局は球団を持てなかったライブドアまでが、一連の騒動で大幅に認知度を高めることに成功している。


ファンの支持が最優先

 一方、しっかりもうかっている人気球団にも、ビジネスの視点からチェックが入ってきた。村上世彰氏が率いる投資会社、いわゆる「村上ファンド」による阪神球団の株式上場の提案である。
 球団の株式を上場させて、親会社である阪神電鉄は利益と資金を得る。その株主は株価の上昇か配当によって利益を得る。阪神球団は親会社に振り回されず自由に事業を展開することで一層の収益拡大と戦力強化が可能になる。ファンは株を買って株主として球団の経営に参加し、より緊密な結び付きを得られる。なかなか良いアイデアだと思える。
 しかしファンの反応は、あまり芳しいものではなかった。その背景には、投資ビジネスに対する不信感に加えて、球団創設以来約70年にわたって阪神球団を支え続けてきた阪神電鉄に対する親近感、信頼感があるようだ。かつて球団の成績が低迷していた時期には、ファンからは親会社批判が高まったりもしたが、戦力強化がうまくいって03年に続いて今季もリーグ優勝を果たしたばかりとあっては、ファンの多くが現体制を支持するのも無理はないだろう。
 プロ野球チームの経営においては、もうけるためであれ、広告・宣伝効果を狙ってのものであれ、ファンに支持されるか、ファンが見てくれるかどうかがすべての出発点となる。経済の理屈やビジネスとしての合理性よりも、ファンの思いが優先されるのも当然と言えるだろう。


放送コンテンツとしての退潮

 ファンの支持という点では、2005年シーズンには、もう一つ大きな話題があった。巨人戦のテレビ視聴率の低迷である。
 巨人には、阪神などと同様、連日球場に足を運んでくれる「熱烈な」ファンも多いが、テレビで試合の中継を見てくれる程度の「軽い」ファンが日本各地に無数に存在している点で、他の球団とは大きく異なっている。それが、放送権料を収益の柱とする巨人特有のビジネスモデルと、突出した収益力の源泉となっている。
 このモデルの形成においては、長年にわたってスター選手を擁して強いチームであり続けたことに加えて、そもそもテレビで放送するから日本中でファンを獲得でき、ファンがいるからテレビで放送するという循環的な構造が背景となっていた。
 そのビジネスモデルが、視聴率の低迷によって危機にひんしている。その要因としては、成績不振やスター不在といった球団自身の問題に加えて、サッカーや格闘技など新手のプロスポーツの台頭、他ジャンルのテレビ番組のパワーアップ、ゲームやインターネットなど室内娯楽の多様化など、外部環境の趨勢(すうせい)的な変化も指摘されている。
 これは、プロ野球全体の問題でもあるが、「軽い」ファンに支えられた巨人のビジネスモデルへの打撃が最も大きいことは明らかだ。内部的な要因は自らの努力や工夫で盛り返すことも不可能ではないが、外部環境の変化を押し返すことは難しい。
 ただ、いずれにしても、デジタル化によるテレビの多チャンネル化やインターネット・テレビの発展が、コマーシャル収入に支えられた民間放送のビジネスモデル自体にも修正を迫ることになる。それを前提にすると、巨人のビジネスモデルの転換は時間の問題ということもできる。むしろ、視聴率の低迷によって危機感の高まっている今こそ、新たなビジネスモデルを模索する好機ととらえて、動き出すべき時期なのではないだろうか。


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