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いきいき 2004年11月号掲載
連載「未来への視点」第6回
感動消費のマーケット

 セカチュウ、冬ソナ、オリンピックと、「感動もの」の流行やイベントが続きました。今の日本では、誰もが感動を求め、感動消費のマーケットが大きくなってきています。


感動を求める時代

 負けても負けても走り続ける高知競馬のハルウララが人気を集めたのにはじまって、「セカチュウ(世界の中心で愛を叫ぶ)」や「冬ソナ(冬のソナタ)」のヒット。夏にはオリンピックで日本中が盛り上がりました。私も含めて、日本人は本当に感動を欲しているんだなあと、つくづく思わされます。小泉首相ではありませんが、心から「感動したあ」と叫んでみたい気分が広がっているのでしょう。
 私たちが感動を求めるのは何も今にはじまったことではありません。ですが、世の中が豊かになって人々の“モノ”へのニーズが弱まったことで、心がなかなか満たされないことが余計にはっきりと意識されているのではないでしょうか。


広がるマーケット

 “モノ”のマーケットが飽和に向かうなか、人々の感動に対するニーズは際立って旺盛です。もちろん、企業の側もそれを見逃してはいません。
 感動を呼ぶ物語は、本、映画、テレビと複数のメディアで発信され、それぞれの領域でビジネスを生んでいきます。さらに、その物語に関係するグッズが売り出されたり、冬ソナのブームでは、ドラマの舞台を訪ねる韓国ツアーが人気になったりもしました。感動消費のマーケットは、物語を基点にさまざまな方向へ広がっていきます。
 現実のイベントであるスポーツや格闘技の大会でも、選手たちのそれまでのストーリーやライバル関係があたかも物語のように伝えられ、イベントの感動を増幅させる仕掛けが用意されます。人々の感動が大きいほど、そこから生まれるビジネスチャンスも大きくなるからです。


社会にとってのメリットも

 感動消費のマーケットが大きくなるメリットは、私たち一人ひとりの楽しみが広がるだけではありません。多くの人が同じ物語、同じイベントで感動を共有することは、人と人との心理的な垣根が高くなりがちな現代では、社会全体にとっても意味のあることだと考えられます。
 日韓共同開催で盛り上がった2年前のサッカーのワールドカップは、過去の歴史の重みのせいでお互いの距離感を計りかねていた両国の若者たちの間に、一気に親近感を芽生えさせました。
 感動の共有は、お互いを理解しあう過程の第一歩に過ぎません。けれども場合によっては、とても貴重な一歩ともなり得るのです。


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