Works
The World Compass(三井物産戦略研究所機関誌)
2008年7-8月号掲載
労働生産性から見る日本産業の現状
 別掲2:為替レートと購買力平価

 為替市場の動向を考える際のアプローチの一つに「購買力平価」の手法がある。それは、各通貨と物財との関係、すなわち物価を媒介にして、通貨間の相対価格である為替レートの理論値を算出しようという考え方である。この考え方では、物価の上昇は物財に対する通貨の価値の下落を意味するため、その通貨は他通貨に対しても減価するはずだという仮説を置いて、インフレ率が高い国の通貨は低い国の通貨に対して、その差の分だけ減価することが想定される。具体的には、1ドルの円換算値の理論値は、以下の計算式で算出される。
 理論値=α×(日本の物価指数/米国の物価指数)
この計算式で算出される理論値は、参照する物価指標によって相当な違いが生じるが、ここでは、各国内の経済活動全体を対象とした物価指標であるGDPデフレータを用いている。
 またαの値としては、一般的には、特定時点の円ドルレートの実勢値を用い、両国の物価指数はその基準時点を1として指数化した値を用いることが多い。しかし、この手法では、基準をいつの時点に設定するかで、理論値はまったく異なった水準となる。
 そこでここでは、算出された理論値と実勢値の乖離率の対象期間中の平均が0となるようなαの値を逆算して求める手法を用いた。これは、購買力平価の考え方が妥当であれば、為替レートの実勢値は理論値に向けて収斂する傾向が生じ、長期間の平均をとれば理論値と実勢値は一致するはずだという仮説に基づいている。そして、αの値を求めるための計算対象期間としては、相場が明らかに異常な状態にあったレーガノミクスの時期と、近年の日本の超低金利の時期を除くという意味で、1986年から2004年までの19年間と設定した。
 下図は、こうして求めた理論値と実勢値の推移を示している。これによれば、08年1-3月期時点の理論値は84.1円となっており、07年後半からの急速な円高にも関わらず、同時点では、依然として理論値に対して25%程度、円安方向に振れているという評価になる(こうした考え方を含めた為替市場の現状認識と展望については、08年5月付けレポート「激動期を迎えた為替市場」参照)。

購買力平価に基づく円ドルレートの理論値
  • 理論値を算出する際の物価指標には日米両国のGDPデフレータを使用
  • プラザ合意後の1986年から2004年までの間で、実勢値からの乖離率の平均が0になるように調整した値を理論値としている
  • 実勢値は終値の月中平均値を記載

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関連レポート

■円高と「通貨戦争」の現実
 (三井物産戦略研究所WEBレポート 2010年12月15日アップ)
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 (チェーンストアエイジ 2008年12月15日号掲載)
■激動期を迎えた為替市場
 (投資経済 2008年5月号掲載)
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