ヨーロッパの都市や、日本の古い街を訪ねると、その歴史を感じさせる雰囲気やたたずまいに魅了されます。こんな街で暮らしてみたいと思ったりもしますが、おもむきのある街で暮らすのは、苦労もあるものです。
おもむきを守る苦労
古い街並みというのは、観光客としてその地を訪れて雰囲気を楽しむのにはよいのですが、そこに住むには、家の造りが古くて不便だったり、不具合があったりして、あまり快適ではないことが多いものです。掃除や補修の手間も掛かります。
かといって、それぞれの家を好き勝手に建て替えてしまっては、街の雰囲気はまったく変わってしまいます。もちろん、外観をそのままにして、水まわりや内装を新しくすることも可能ですが、そうするには、往々にして、全部を新しくするよりも多額の費用が掛かってしまいます。
いずれにしても、おもむきのある街のたたずまいが守られている裏には、そこで暮らす人々の並々ならぬ苦労があるわけです。
みんなの協力が不可欠
古い住宅がいくつも保存されていても、その間に電飾ギラギラの商店が混じっていたのでは、街全体のたたずまいという意味では、ぶち壊しになってしまいます。街のたたずまいを守るには、そこで暮らす人全員が、目的を共有して、力を出し合っていくことが必要です。
その街並みが文化財とか世界遺産といった特に貴重なものだと評価されている場合には、国や自治体から何らかの経済的な補助が出るのと引き換えに、建物や暮らし方について、さまざまな規制がかけられるのが普通です。ですが、そうでない場合でも、街のたたずまいや景観を守るために、住民同士の自主的なルールや暗黙の合意、コンセンサスが形成されているケースも少なくありません。
コンセンサスこそが文化
コンセンサスが重要なのは、文化遺産と呼べるような古い街並みの保存ばかりとは限りません。私たちが普通に暮らしている街についても、より暮らしやすい街づくりのためには、自分の家だからといって好き勝手にできるということにはしないで、お互いにルールを設定していくことも有効と考えられます。
ですが、そういうコンセンサスが成立するには、その社会が経済的にも文化的にも、相当高い水準に達している必要があります。公共の財産である住環境に価値を認めることができるということもありますが、それにも増して、コンセンサスを得るための仕組みができているということも、その社会の文化レベルを物語る重要な要素です。
そうした意味で、私たちの社会の文化レベルは、街並みや文化遺産そのもの以上に、それを守ろうとする人々の精神や、コンセンサスを生み出す社会的な仕組みにこそ、表れているといえるでしょう。
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