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いきいき 2005年4月号掲載
連載「未来への視点」第11回
高齢化の時代に向けて

 「日本が高齢化する」と聞くと、自分自身が年をとって体力や気力を失う姿とダブらせて、暗いイメージをもってしまいがちです。実際、難しい問題もあるわけですが、それを乗り越えるための方策も見えてきています。


長寿化と少子化の潮流

 国の高齢化とは、一義的には、総人口に占める高齢者の比率が上昇する現象を指します。日本の場合には、たとえば65歳以上の人の比率でみますと、1990年には1割強だったのが、2005年には約2割、2020年代には3割近くにまで上昇する見込みです。
 これは、生活水準と医療技術の向上にともなう「長寿化」と、各家庭が産み育てる子供の数が減る「少子化」が進んだことによるものです。人々の寿命が延びたのは喜ばしいことです。子供の数が減るのも、日本の国土の狭さや環境問題、都市問題の深刻化を考えれば、必ずしも悪いことではないかもしれません。ですが、このまま高齢化が進むと、経済全体が上手く回らなくなるおそれがあります。


問題は供給力と社会保障

 第一には、現役で働いている人が減る一方で、仕事から引退した高齢者が増えることで、商品やサービスの供給が追いつかなくなる懸念があります。いろいろ試算してみると、決定的な供給力不足は避けられそうではありますが、手放しで安心できる状況ではありません。
 もう一つは、すでに問題になっている公的な年金や医療保険といった社会保障制度の行き詰まりです。これらの制度は事実上、現役で働いている世代の人々が引退した世代の人々の生活を支える形になっているのですが、支えられる人々の割合が大きくなることで、現役世代の負担の増大と、支援のレベルの切り下げが避けられない状況になっています。下手をすると、社会保障のあり方をめぐって、世代間の摩擦が高まる可能性もあります。


備えるカギは健康と教育

 これらの問題を解く共通のカギは、現役の人を増やすこと。つまり、できるだけ多くの人が、それぞれの希望と能力に応じて、より長く現役で働けるようにしていくことにあります。そうなれば、供給力不足の心配は薄らぎますし、社会保障制度の建て直しにも目処をつけやすくなります。
 それを実現するには、私たち一人ひとりが、長く仕事を続けられるだけの健康と能力を維持していくことが必要です。それをサポートする意味で、国や自治体には、人々の健康増進の支援や、若者から中高年層まで含めた職業教育の仕組みの拡充、高齢者が働きやすい環境の整備などが求められます。
 高齢化の時代に向けては、これらのような、「人」を中心に据えた政策が、今まで以上にクローズアップされてくるでしょう。


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