「必要は発明の母」ということわざがあります。画期的な発明は、それを必要とする人がいるから生まれるものだ、といったような意味ですが、最近では、この「必要」と「発明」の関係は、微妙に変わってきています。
「必要」の見えない時代
メーカーであれサービス業であれ、消費者のニーズ、何が必要とされているかを知ることが、ビジネスの第一歩となります。とはいっても、消費者のニーズを知ることは、時代とともに、次第に難しくなってきました。
その理由の一つに、衣食住の基本的な欲求が満たされてしまったことがあります。現在の日本では、消費者のニーズといっても、「ぜひ欲しい」とか「ないと困る」というレベルよりも、「あった方が良い」とか「あれば使う」という程度のものが大部分になってきています。このところヒットしているデジタル家電も、ニーズの切実さという意味では、かつての電気洗濯機や冷蔵庫とは比べ物にならないでしょう。
医療やセキュリティなど、切実なニーズが残った一部の分野を除けば、「発明の母」としての「必要」のパワーは、格段に落ちてきているのです。
ニーズ探しがビジネスの基本
もちろん、ニーズが見えないといっても、企業としては何もしないわけにはいきません。企業は手を替え品を替え、さまざまな商品やサービスを市場に投入しては、見えないニーズを探ろうとしています。
なかには、ほとんど必要ないように思える商品やサービスでも、売り出してみたら大ヒット、というケースもあります。たとえばコンビニがそうです。コンビニが登場したての頃には、深夜まで店を開けてお弁当や飲み物、雑貨類などを売っても、お客は来ないだろうと言われました。ですが実際には、多くの消費者を惹きつけ、巨大産業に成長したのです。
これは、コンビニができたことで、夜中に活動する人が増えたためだと考えられています。そして、夜中に活動する人にとっては、コンビニはなくてはならない存在になっています。
不健全は仕方ない?
コンビニの場合、「発明が必要を生む」という、ひっくりかえった形になっていると言えるでしょう。似たような話は、たくさんあります。パソコンやインターネット、あるいはゲーム機器にしても、使う前にはさほど必要性を感じなかったのが、いったんそれになじんでしまうと、もう、それなしでは暮らしていけなくなってしまいます。
ニーズのないところに、無理やりビジネスを立ち上げてニーズを作り出してしまうというのは、あまり健全なこととは思えません。ですが、この場合、健全と不健全の境目はきわめて曖昧です。
企業での生産活動を主力とする現代の経済がうまく機能するには、そうした不健全さをある程度は受け入れるしか、仕方がないのかもしれません。
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