去る2月末、経済産業省は2002年に実施した商業統計調査の業態別統計編を発表した(図表1)。商業統計は、日本の流通業の状況をもっとも包括的にとらえた統計で、なかでも業態別統計編は小売業の動向を鮮明に映し出す重要なデータである。本稿では、今回発表されたデータから読み取れる近年の小売業のトレンドをピックアップしてみたい(以下では商業統計に準じた業態名を用いている)。
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図表1 商業統計(業態別)の概要 |
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総合スーパーと食料品スーパーの逆転
今回発表された業態編のデータで、まず目を引くのは、チェーンストアの代表格とも言える総合スーパーと食料品スーパーの経営環境の変容である。1990年代を通じて、総合スーパーの成長は食料品スーパーを下回っていた(図表2)。とくに99年調査では総合スーパーの退潮は鮮明となり、その後、マイカル、長崎屋、壽屋が倒産、ダイエーと西友は銀行や外資の下での経営再建に追い込まれている。
ところが、02年の調査では、総合スーパーの後退に歯止めが掛かる一方で、食料品スーパーの売上が減少に転じ、両者の売上増減率が逆転する形になっている。そこから読み取れるのは、80年代末の大店法緩和を契機として引き起こされた変動が転機を迎えているということだ。
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図表2 総合スーパーと食料品スーパーの売上増減率(前回調査比)の推移 |
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総合スーパーの売上減少率が縮小したことは、相次いだ企業倒産と店舗閉鎖による調整が最終局面に入ったことをうかがわせる。それは同時に、大店法緩和後の出店競争がもたらしたオーバーストアの状況が緩和しつつあるということだ。イトーヨーカ堂とイオン、あるいは地方で強固な地盤を築いている平和堂やイズミといった生き残り組が、いよいよ残存者利得を手にできる局面が近付いていることの予兆でもある。
他方、食料品スーパーの方では、大店法時代の遺物である小規模店舗のスクラップと、競争力を欠いた中小チェーンの淘汰がいよいよ本格化してきているようだ。地域性の強い「食」の分野に特化した食料品スーパーでは、全国レベルでの企業規模よりも特定地域での市場シェアや顧客への密着度が競争力を左右する傾向が強い。そのため90年代までは、比較的規模の小さな企業でも生き残ることが可能であった。しかし、商業統計のデータは、そうした状況に転機が訪れていることを示している。今後は、店舗閉鎖とM&Aによる業界再編が、一段と加速することが予想される。
県別データで浮き彫りになる発展段階の違い
次に、速報段階では公表されていなかった、各県ごとの業態別データを見てみよう。図表3-1、2は、縦軸に各県の小売販売額に占めるそれぞれの業態のシェア(前回調査での値)、横軸に前回調査からの増減率をとって、業態別に各県のデータをプロットしたものである。
全国への浸透の途上にある業態では、シェアの低い県ほど大幅な増加となる傾向が鮮明に見てとれる。ドラッグストアがその典型だ(図表3-1)。カジュアル衣料チェーンを中心とする衣料品スーパーも、シェアと増減率の負の相関は鮮明で、浸透途上の業態であることをうかがわせるが、衣料品市場の縮小もあって、減少に転じている県も少なくない。終日営業のコンビニエンスストアも、シェアと増減率の負の相関は見られるが、大半の県が分布の上の方に固まりつつあることから、浸透の度合いが進んでいることが読み取れる。
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登場してから既に長い年月を経ている総合スーパーや食料品スーパーでは、シェアと増減率の相関はほとんど見られず、全国への浸透過程を完全に脱していることが確認できる(図表3-2)。これらの業態では、県別の売上の増減は、個々の企業の動きに左右される。総合スーパーでは、壽屋とニコニコ堂の破綻の影響で、宮崎と熊本の減少率が突出する一方、地元にイズミ、フジといった有力企業を抱える広島、愛媛の増加が目立っている。地方GMS最大手の平和堂を擁する滋賀では、総合スーパーのシェアが全国でも飛び抜けており、成長の限界を迎えつつあることがうかがえる。食料品スーパーでは、一時の総合スーパー展開からSM回帰に転じたヨークベニマルの地元である福島の増加と、90年代末からM&Aが相次いで、競争力のない店舗の閉鎖が急速に進展した三重の減少が目立っている程度で、他の業態に比べて県ごとの差異はきわめて小さい。
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図表3-2 県別に見た各流通業態の状況(2) |
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総合スーパーに関しては、サンプルの少ない秋田、福井、山梨、和歌山、島根、徳島、高知、鹿児島、沖縄の9県のデータが公表されていないため、それらの県はグラフに表示されていない。 |
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小売業の事業環境は新たな局面へ
以上見てきたように、全国への浸透の途上にあるコンビニ、ドラッグストア、衣料品スーパーが、浸透の遅れた地域が先行地域にキャッチアップする形での高成長を続けている一方で、成熟業態である総合スーパーと食料品スーパーでは、淘汰とM&Aによって収益基盤を固めていくプロセスが進んでいる。
こうした大きなトレンドに、SCも含む業態そのものの進化のプロセスや、外資の進出、総合商社の参入といった流れが絡んでくる。それら個々の動きは、商業統計のようなマクロ統計では追えないが、動きの底流を理解するうえでは、ミクロの情報とマクロのデータを、的確な切り口で組み合わせてウォッチしていくことが欠かせない。
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