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text021 2004年8月13日
小売業の多様化と画一化

 ちょっと前の話ですが、久しぶりに銀座で食事でもと思い、ときどき行っていた欧州家庭料理のレストランに出かけたのですが、知らない間に閉店してしまっていました。1966年のオープンで、日本にムール貝を初めて紹介したという由緒のあるレストランです。味はもちろん和める雰囲気とリーズナブルなメニュー構成が気に入って、学生の頃から20年近く通っていた店でしたので、たいへん残念な思いをしました。

 さらに前の話になりますが、やはり銀座の、掻揚げで有名だった天ぷらの老舗も、跡継ぎの職人がいないということで閉店してしまいました。ソフトボールのような大きくて厚みのある掻揚げは、外側はサクサクでなかはフワフワという独特の食感で、ときどきどうしても食べたくなって出掛けてしまう店でした。こちらも、なくなってしまったときには本当にガッカリしました。

 この二つの店の跡には、多店舗展開している鳥料理の店と、今風の和食ダイニングが入っていました。企業経営のチェーン店が成長して、個人経営の店が消えていくというのは、すでに40年以上も続いている潮流です。個人経営の店の場合、別にチェーン店に押されてということではなくても、後継者の問題とかもあって、永く続けていくのは難しいのでしょう。ここで取り上げたような、老舗と呼ばれるような名店も例外ではないわけです。

 このサイトには、小売産業の発展・進化について書いた文章をいくつかアップしています(下記)。そのなかでは、小売産業の多様化の進行についても触れています。70年代頃から、チェーン型の小売業態は急速にその種類を増やしていきました。コンビニ、ドラッグストア、ホームセンター、ファストフード、ファミリーレストランなどなど。それを「多様化」と表現したわけですが、似たようなチェーン店がコピーのように増殖する一方で、本当にユニークな個人経営の店は次々に消えていきました。チェーン業態の多様化が進むのと並行して、小売業全体ではむしろ画一化が進行していたのです。

 ですが今後は、人々の価値観の多様化や、本物志向、安全志向の高まりを受けて、画一化の流れは少しずつ弱まっていくものと思われます。消費者が便利さと低価格だけを求めていた時代に比べて、個性的な店が生き残りやすい時代になると予想されるためです。

 消えていく店はこれからも後を絶たないでしょうが、人々の働き方が多様化するなかで、新しく個性的な店をはじめようという人が増えることも期待できます。また、多様化に続いて生じている「複合化」の流れ(下記関連レポート参照)も、その追い風になるでしょう。

 このサイトでは、そうした仮説を念頭に入れて、個別の小さな動きをフォローしつつ、追い風にしろ向い風にしろ、全体の大きな流れを捉えて紹介していきたいと考えています。


関連レポート

■流通産業の歴史的展開
 (The World Compass 2004年5月号掲載)
■チャンスの拡がる対消費者ビジネス
 (The World Compass 2003年11月号掲載)
■小売業界の主役が代わる−外資、商社の参入と商業集積の発展で揺れる小売業の未来像−
 (チェーンストアエイジ 2003年9月1日号掲載)
■進化を続ける小売業−店舗の進化から集積の進化へ−
 (読売ADリポートojo 2003年6月号掲載)
■商業政策の明と暗−規制で守る生活文化−
 (読売ADリポートojo 2002年5月号掲載)


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