今年、2005年のゴールデンウイークは、週休2日の職場であれば、1日ずつはさんで3連休、3連休、2連休と続く、なかなか豪華な曜日並びであった。ゴールデンウイークに限らないが、こうした休日の並び方が景気に与える影響は、時代とともに大きくなってきている。
休日による経済の活性化
現在の日本では、休日の拡充は経済の活性化につながると考えられている。供給力に対して常に需要が不足気味で、需要の動向が景気を左右する時代には、人々が生産活動を休んで、買い物やレジャーといった消費活動を行ってくれた方が、景気にはプラスになるという理屈だ。
また、消費者を相手にする小売業や外食産業、サービス産業では、多くの人が仕事を休む週末や祝日が稼ぎ時であり、それらの産業が経済の主力になってきたことが、休日による景気刺激効果をより鮮明に見せている面もある。
そうした時代背景で採られたのが、一部の祝日を特定の日付から何月の第何月曜日といった形に変更する方策である。週末から続く連休を増やすことで、人々が買い物やレジャーに出掛けるようにうながそうということだ。2000年から「成人の日」と「体育の日」、03年からは「海の日」と「敬老の日」が月曜日に移された。
それに対して、休日を増やす動きは、あまり目立って進んではいない。1989年の「みどりの日」、95年の「海の日」と、増えてはいるものの、そのペースはごく限られたものにとどまっている。それは、賃金をそのままにして休日を増やしたのでは、企業にとっては収益の低下につながることから、企業の抵抗が大きいためと考えられる。国際競争力の低下にもつながりかねないという面もある。
休日の少ない日本
それでは日本の休日数が他の国に比べて多いのかというと、そうでもない。日本の法定上の休日は、1年を通して数えてみると、「元日」から「天皇誕生日」まで15日ある。厳密な比較は難しいが、この数字は、フランスの11日、アメリカの10日、イギリス、ドイツの8日を抑えて、先進国では最も多い(下表参照)。しかし、働いている人がそれぞれに取得する有給休暇を計算に入れると話は違ってくる。
これも、統計上の制約があったり、パートタイマーやフリーターをどう考えるかといった問題があるため、厳密には比較できないが、厚生労働省の推計によると、有給休暇の平均日数では、8.8日の日本は、先進国中最も少ないという現状が示されている(下表)。とくに、31日のドイツをはじめとするヨーロッパの国々との差は歴然としており、トータルでの休日数は、日本の方が少なくなっている。
これは、有給休暇のそもそもの付与日数の違いもさることながら、そのうち実際に取得される割合の違いが大きいと考えられている。前述の厚生労働省の推計は、日本だけが取得日数で、他は付与日数である。したがって、基準をそろえれば、日本と他の国との差は縮小するはずではある。しかし、日本以外では、通常、付与された有給休暇は大部分を消化するため、付与日数と取得日数に大きな差があるのは日本だけだということでもあるようだ。
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休日数の国際比較 |
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- 資料:独立法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2005」
- 注:年次有給休暇は付与日数、日本は取得日数
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集中のデメリット
日本では、多くの職場で、当然の権利である有給休暇の取得を躊躇させる雰囲気があるらしい。その背景としては、企業を一種の共同体として認識する度合いが強いことや、勤務状況の評価システムが未成熟で、休暇取得がマイナスの評価につながるとの認識が残っていることなど、さまざまな仮説が考えられる。
いずれにしても、日本では、個人がそれぞれに取得する有給休暇が少なく、その分を法定休日の多さでいくらか穴埋めするという状況であることは確かである。休むのは「みんな一緒に」というわけだ。
そうした傾向は、休日の消費活動において、消費者とサービスを提供する企業の双方にデメリットがある。消費者にとってのデメリットは、消費活動の現場の混雑だ。年末年始とゴールデンウイーク、お盆の休みには、空港や道路、鉄道、観光地、宿泊施設など、どこへ行っても混雑し、せっかくの旅行を楽しめないということにもなる。そこまで極端ではなくても、普通の週末の外出や買い物でも同じことが言える。
サービスを提供する企業にとっても、特定の時期に需要が集中する傾向は、ありがたいものではない。需要に波があると、設備やスタッフを、ピーク期への対応を前提にしてそろえることになるため、閑散期には稼働率が落ち、相当な非効率が生じてしまう。空港や鉄道、道路などの公的なインフラの場合も同様だ。
近年では、ピーク期の顧客の受け入れを限定して、需要の平準化を目指す事例も目立っている。予約の取りにくさから「幻の」とか「伝説の」と呼ばれる温泉旅館やレストランも登場している。そうなると、どうしても行きたいという人々が訪れるために平日にもフル稼働となり、高水準のサービスを恒常的に維持できるという好循環が形成される。そうした対応が可能なのは、強力な差別化要素を持つ一握りの施設に限られるが、消費需要に波のある現代の日本においては、なかなか興味深い戦略であることは間違いない。
長期的に見れば、日本の休日のスタイル自体が、経済構造や社会情勢の変化にともなって変わっていくことも十分考えられる。日本の休日における「みんな一緒に」の傾向がどうなっていくのかは、日本の経済を、また企業の戦略を考えるうえでも、目の離せないテーマと言えるだろう。
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