統計データから各産業の動向を包括的に把握しようとする場合には、財務省が作成している法人企業統計を用いるケースが多い。この統計は、金融業を除く法人企業の経営指標を、損益計算書、貸借対照表の形式に準ずる形で、産業ごと、企業規模ごとに集計したものである(年度ベースで発表される年報では全法人企業、四半期ごとの季報では資本金1,000万円以上の企業を対象とした標本調査)。
下図は、法人企業統計季報から取った小売業の総資産営業利益率の推移を示したものである(季節変動を取り除いて傾向を明らかにするために4期移動平均の値を用いている)。この図からは、バブルの崩壊を挟んで、それ以前とそれ以後では、収益環境が一変したことが鮮明に読み取れる。利益率4パーセントの時代から2パーセントの時代へのシフトである。
この2パーセント時代は90年代いっぱい続いたが、2000年に入ってから様相が変わってきた。久々の上昇基調で、4期移動平均の値も3パーセントを超えた。この時期は、いわゆる「ITブーム」で景気が上向いた時期であるが、小売業の復調振りはきわめて顕著であった。法人企業統計のデータで細かく見ると、その間、粗利率は上昇、販管費率は低下、総資産回転率は上昇と、いずれの指標も好転している。
しかし、その時期の出来事を振り返ってみると、好転した統計データを必ずしも楽観視できる状況ではなかったことは明らかだ。そごう、長崎屋、マイカルの経営破綻は、いずれもこの期間に起きている。GMSを中心とする大型店の閉鎖が加速したのもこの時期だ。
要するに、この時期の小売業の経営指標の好転は、淘汰の結果、負け組企業と不採算店舗という、産業内の脆弱な部分を切り捨てたことで実現されたものと考えられるのである。それと並行して進められた、人員や保有資産の圧縮、取引先の絞り込みも、同じ文脈で評価できる。痛みをともなうリストラ型の収益改善だったということもできるだろう。
こうして回復に向かってきた小売業であるが、2002年の半ば頃からは、再び厳しい状況に見舞われている。下の図でも、グラフは頭打ちから低下に転じている。リストラ型の収益改善は、小売業に限らず、多くの産業で進められているが、その過程で吐き出される人員や資産が勝ち組企業や新興産業で活用されなければ、マクロの景気は一段と落ち込み、企業収益は再び悪化する。日本経済は今まさにそうした状況にある。小売業の利益率が頭打ちになっている裏にも、そうした背景が想定できる。リストラ型回復が限界を露呈した形である。
判断を下すにはまだデータ不足ではあるが、小売業の経営環境がさらに厳しさを増している可能性は、考えに入れておく必要があるだろう。
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