今回は、このサイトをいつもご覧いただいている方をはじめ、日本の経済や社会の未来に関心をお持ちの方にとっては、たいへんに刺激的だと思われる本をご紹介します。
岩村暢子著「<現代家族>の誕生−幻想系家族論の死」(Amazonの紹介ページへ)。以前、このサイトでもご紹介した「変わる家族 変わる食卓」(Amazonの紹介ページへ)の続編にあたる本です。2003年に刊行された前作は、多くの議論を巻き起こしました((当サイトの同書紹介ページへ)。私も大いに刺激を受けて、著者の岩村さんにお話を聞きに行っています(インタビュー記事「食卓が語る日本の現在」へ)。
前作では、綿密な聞き取り調査によって現代の家庭の「食」が危機的な状況にあることが明らかにされましたが、本書は、なぜそういう状況になってしまったのかを浮き彫りにしていく、いわば「謎解き編」といった位置付けです。私がお話を聞いた際にも「是非次は謎解きを」とお願いしていますが、その際のインタビューでの岩村さんのお話の端々に、本書で提示されることになる「謎解き」の一端がうかがえます。その時点ですでに本書の構想はある程度まとまっていたのかもしれません。
その内容は本書をお読みいただくとして、そこで語られているのは、現代の母親たちの問題の根っこには、彼女たちが育ってきた時代環境、もっと言えば、彼女たちを育てた親世代の問題があるということでした。本書の分析は明快そのもの。「なるほど、そういうことだったのか。」と、すっかり納得できるものです。
ただ、「なんでこんなことになったんだ」という問いが、あまりにもすっきりと解けてしまって、「これではいかんぞ」という問題意識までが薄れてしまうのではないかという気さえしました。それは、本書で提示された「謎解き」がきわめて明快な解答であるためです。現在の日本の「食」が抱える問題に対して、ある種の諦観さえ感じてしまいました。これから本書をお読みになる方は、この点、くれぐれもご注意ください。探偵小説と違って、謎が解けたからといっても、問題はまったく解消されていないのですから。
いずれにしても、現実の問題点をきっちりと認識し、そういう現実が生じた背景やプロセスを理解することは重要です。前作をお読みになった方はもちろんですが、未読の方は前作と併せて、本書をお読みになることを強くお薦めします。
「<現代家族>の誕生−幻想系家族論の死」(Amazonの紹介ページ)
「変わる家族 変わる食卓―真実に破壊されるマーケティング常識」(Amazonの紹介ページ)
関連レポート
■岩村暢子氏インタビュー「食卓が語る日本の現在」
(The World Compass 2003年10月号掲載)
■「豊かさ」の代償−家事労働の社会的分業がもたらすもの−
(読売ADリポートojo 2003年10月号掲載)
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