6月の末から一週間ほど、経団連のミッションに参加して、アメリカに行ってきました。ミッションは「デジタル・エコノミー下の米国産業界再編を探る」をテーマに、メーカー、金融機関、商社等から20名ほどのメンバーで、シリコンバレー、ロサンジェルス、シアトルと回り、たくさんの企業や大学で話を聞いてきました。
訪問先は、シスコ、サン・マイクロシステムズ、ソレクトロン、アリバといったハード、システムのサプライヤー、AOL-タイム・ワーナー、アマゾン・ドット・コム、リアル・ネットワークスといった典型的なIT企業の他、ウォルト・ディズニーやユナイテッド航空といったITの活用を図る立場の企業やベンチャー・キャピタルなど、多岐にわたりました。これだけの濃密なスケジュールを組めたのも、経団連のミッションならではのことでしょう。
ここでは、ミッションを通して得た印象をお伝えしようと思うのですが、一口に「経済・社会のデジタル化」といっても、その全体像を理解しようと思うと、さまざまな切り口が必要になります。そこで、ミッションを振り返るにあたっても、切り口を変えながら、いくつかの視点に分けて整理してみようと思います。
まず、マクロ経済の視点からは、情報技術の活用による生産活動の効率化と、それを実現するための企業間の機能分担関係の再編という潮流が、SCMやCRMといったキーワードとともに、引き続き進行中だという印象を受けました。ミッションでは、デジタル化による生産性向上の面で最も寄与の大きい流通業の企業を訪ねることはできませんでしたが、ミッションの後の3日間、各種の流通業態の店舗を視察してきたなかで、効率化の成果を単に価格競争の原資とするのではなく、CSの向上に結び付けている様子が見て取れました。効率化の方法論と、その成果を活かす方向性が、いずれも明確であることから、前述の印象は、かなり確度が高いものと考えています。
関連レポート
■米国のマクロ経済とIT革命
(The World Compass 2000年7月号掲載)
■米国のIT革命と流通業
(東洋経済統計月報2000年6月号掲載)
第二に、ビジネスの視点で最も興味深かったのは、デジタル化の影響をまともに受ける放送、出版、音楽、広告などの、いわゆるメディア産業の動向です。この領域の現状としては、「カオス」という言葉がぴったりきます。ブロードバンドというキーワードは明快だったのですが、それを使って収益をあげるビジネスモデルは確立されていない。とはいえ、ミッションで聞いた限りでは、ブロードバンド化をチャンスとみて突っ込んでくる人とマネーは少なくはなさそうです。多くのドット・コム企業の二の舞となる懸念は大きいものの、活気は失われてはいないわけです。混乱と活気、まさに「カオス」です。
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■転機を迎えた情報優位の時代−未来のカギとなる生産と消費の融合−
(読売ADリポートojo2000年8月号掲載)
第三に、景気動向という視点では、従来から持っていた悲観的な見方を変えるような材料は得られませんでした。前述のように、効率化を目指した情報化投資や、ブロードバンド化をにらんだインフラやシステムへの投資をはじめ、情報関連の需要は拡大する可能性が高そうです。しかし、本格化しつつある家計セクターの調整を相殺するほどの需要拡大が望めるかというと、それは難しそうな印象でした。
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■エコノミストのジレンマ −アメリカ経済の減速に寄せて−
(Views text002)
最後に、実はこれが個人的に最も印象的だった分野なのですが、経済のダイナミズムを生み出すインフラとしての文化や金融システムに関する議論からは、直接、間接にたいへん刺激を受けました。このあたりは、ミッションで得た情報とアイディアをさらに練って、形にしていきたいと考えています。
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