ここ数年の間で、日本でも、企業買収のビジネスが急速に本格化してきました。その動きは、私たちの経済や社会にとって、どのような意味を持っているのでしょうか。
ダメな経営者を追い払う
企業買収にもいろいろなタイプがありますが、近年、話題になっているのは、不振企業の再建を狙うタイプ、とくに、いわゆる「乗っ取り」と呼ばれる「敵対的買収」です。
敵対的買収は、潜在的な力がありながら経営が下手なためにそれを生かしきれていない企業が対象になります。そうした企業の株を買い占めて経営の実権を握ると、企業再建の実力のある新しい経営者を送り込んで、事業戦略を練り直して業績を向上させたり、他の企業との合併や事業売却を行って、トータルでの企業価値を高めようという狙いです。
そういうやり方ですから、買収のターゲットとなる企業の現経営陣や、その下で安穏と仕事をしていた社員とは、敵対的な関係になりがちなわけです。
主役はファンド
こうした敵対的買収の手法は、一般の零細な株主はもちろん、企業との長期的な関係性を前提として大株主の地位を占めてきた、銀行や保険会社でも不可能です。それは、事業の安定性を要求される彼らにとっては、リスクが大きすぎるためでもあります。そのため、現在の日本の敵対的買収ビジネスでは、ある程度のリスクを覚悟できる大口の投資家の資金を集めて組成された「投資会社」や「ファンド(基金)」が主役になっています。
先行するアメリカでは、それらに加えて、一般の人々が加入している年金の資金を運用する、巨大な年金ファンドの資金の一部も、企業の買収や再建のビジネスに振り向けられています。
反社会的な企業を抑止する効果
買収を狙う投資会社やファンドの存在は、企業経営者に緊張感を与えます。その結果、多くの企業が短期的な業績向上のために従業員のリストラを行ったり、長期的な投資を萎縮させたりといった弊害が生じる懸念もあります。
その一方で、企業活動の非効率が目立つ現在の日本では、緊張感を持った企業経営者が事業の効率化や事業機会の発掘に努力することで、経済全体が活性化するプラスの効果も大きいものと考えられます。
また、買収の脅威の存在は、経営の下手な企業だけでなく、公共の利益に反する企業活動を抑止する効果も持っています。反社会的な活動を行った企業は、消費者や株主に嫌われ、業績は悪化、株価は低迷しがちになり、企業買収の格好のターゲットになってしまいます。買収の脅威がある場合には、うかつに反社会的な活動を行うわけにはいかないのです。
買収ビジネスの成長は、私たちの社会にとっては功罪併せ持つ「両刃の剣」と言えますが、今はそのプラスの働きを期待できる時期ではないでしょうか。
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