Works
チェーンストアエイジ 2001年8月1日号掲載
「データで読む流通」
リテールビジネスに期待がかかる低成長時代

 2001年1−3月期の成長率が、▲0.8%(前期比年率)と発表された。景気後退を改めて確認するデータであり、今後に向けての懸念はますます高まったといえるだろう。

 振り返ってみると、バブル崩壊以降、1991年度から2000年度までの10年間の経済成長率は、平均1.2%である。その前の10年間の平均が4.2%だったのと比べると、90年代を「失われた10年」と呼ぶ意味も分かる気がする。

 ただ、単に成長が鈍いから暗い時代だと考えてしまうと、これからはまさに「お先真っ暗」ということになってしまう。人口の減少により、日本の経済成長率は確実に低下していくからだ。

 下図は、21世紀前半の人口増加率と経済成長率の予測をプロットしたものである。人口増加率は、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成9年1月推計)」による総人口の中位推計値から算出したものであり、成長率予測は、その推計人口をベースに、経済全体での供給力の伸びを推計することで算出したものだ。供給力を基準に考えたのは、経済の趨勢を規定するのは供給力の動向であり、長期的に見ると、供給力が所得を生み、所得が需要を生むと想定されるためである。

 なお、成長率予測のうち、「延長ケース」とあるのは、年齢別・性別の労働力率や失業率、資本装備率と労働生産性の関係など、基本的な経済構造が現状のままの場合、また「適応ケース」というのは、高齢者や女性の就業率が、大幅に上昇する場合を示している。

人口増加率と経済成長率の予測

 図をみると、今後、成長率は趨勢的に低下し、延長ケースでは2010年前後には1%を下回る状況になる。相当楽観的な適応ケースでも、1%台前半を維持するのがやっとといったところだ。成長率だけでみれば、90年代のような状況が、延々と続くイメージである。

 しかし、企業の経営環境という意味では、これからの低成長時代と90年代では、まったく異質なものになるだろう。90年代の低成長は、供給の伸びに需要が追いつかなかったためのものであった。需要の不足は、デフレ圧力を生じさせ、企業収益低迷、倒産増加の原因となる。需要不足こそが不況だとも言える。それに対して、これからの低成長は、供給力の伸びが鈍化するためのものだ。別の言い方をすると、図に示した程度に需要が伸びれば、需要不足=不況にはならない、ということだ。

 ただ、2008年には人口は減少に転じ、それ以降は、既存の商品、普及が一段落した商品の市場は縮んでいくのが普通になる。低成長下の経済では、企業は、人材や資本といった経営資源を常に新しい需要に向けてシフトさせ続けていかなければならなくなるわけだ。そのためには、消費者の新たなニーズ、潜在的なニーズを探り出していくことが、これまで以上に重要になる。

 その意味で、消費者と直接の接点を持つ、小売業をはじめとするリテールビジネスの役割も、今後一段と重要なものになることが予想されるのである。


関連レポート

■チェーンストアに共通の課題として浮上する人口減少時代への対応
 (チェーンストアエイジ 2005年5月15日号掲載)
■リテールビジネスは創造力の時代へ
 (日経MJ 2004年12月6日付第2部「新卒就職応援特集」掲載)
■これからの景気回復−モザイク型景気拡大の時代へ−
 (読売ADリポートojo 2004年12月号掲載)
■高齢化時代の日本経済
 (The World Compass 2001年5月号掲載)


Works総リスト
<< TOPページへ戻る
<< アンケートにご協力ください
Copyright(C)2003