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text015 2003年3月23日
イラク戦争開戦

 戦争が、はじまりました。回避の可能性が少しずつ消えていった果ての開戦で、もはや驚きはありません。各国政府も企業も、とっくに戦争を折り込んで動いてきました。そんななかで、テレビで戦況を眺めながら戦争の悲惨さを語ることには意味がないでしょうし、それはむしろ世界の過酷な現実から目をそらすことにもなりかねません。今は、戦争という現実を前に気乗りはしないところですが、この戦争で何がどう変わるのか、そして私たち自身、何をどうすればよいのか、冷静に考えることが必要でしょう。

 2002年の初めに、9.11のテロに関する小論を書き、このサイトにもアップしました(下記参照)。そこでは希望を込めて、テロの排除という多くの国と人々に共通の目的を前提に、世界各国が利害の対立を浮き彫りにしながらも国際協調の新たな枠組みを模索する動きが進むというシナリオを掲げていました。米英が国連決議なしにイラク攻撃に踏み切った今となっては、このシナリオはやはり甘すぎたということになるのでしょうか。

 今や世界には、イラク攻撃の是非をめぐって、さまざまな場所にさまざまな角度で亀裂が走っています。攻撃を是とした米・英・日と、最期までそれを認めなかった仏・独・露・中という大国間の亀裂は、国連の機能低下を決定的に露呈させ、イラクとの戦争とは別の意味で、きわめて深刻な状況をもたらしました。経済統合を完成させつつあったEUも割れました。米国を支持する英国と日本では、反戦に傾いた国民と政府との間の亀裂が鮮明になっています。米国においてさえも、反戦を主張する人々の動きが目立ってきました。従来からの民族間の対立、先進国と途上国との摩擦も、依然として解消の糸口を見出せずにいます。

 それでもなお私は、昨年初に描いたシナリオはまだ崩れてはいないと考えています。イラク戦の戦後処理、同国の復興は、国際協調の枠組みを再構築する機会となるでしょう。その際には、米国単独ではなく、英国などが実戦に参加し血を流していることが効いてくるのではないかと考えられます。英国は、自ら血を流すことで米国と仏・独・露・中の双方に意見を言える立場を保持し、亀裂の修復にあたっては重要な役割を担うことが期待されます。また、イラクでの戦争が終わってもテロの脅威が消えることはなく、対テロという共通のベクトルは依然として国家間の求心力として働くでしょう。

 イラクでの戦闘がどのような推移をたどるのかは、まだまだ不透明です。今の時点では、世界の亀裂をこれ以上深めないためにも、戦争の早期終結を祈るばかりです。


関連レポート

■そろそろ、テロについて−9月11日テロ事件の影響をどうみるか−
 (読売ADリポートojo2002年1月号掲載)


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