本論で触れた高齢化時代の経済環境の試算について、いま少し詳細に述べておくことにしよう。
まず、実質GDPについては、次式で算出する。
実質GDP=就業者数×労働生産性
これは、経済の供給サイドの視点からの推計式であるが、極めて長い期間にわたる試算であることに加えて、供給力不足の可能性を検証する目的があることから、こうした枠組みを設定した。
また、この場合の労働生産性は、労働時間の変化をも内包したものであり、通常の指標としての労働生産性とは若干異なった概念である。これは、経済の重心が商品の製造・流通からサービス産業、情報産業へシフトするに従い、労働時間の概念そのものが変化することと、労働時間の変化幅には限界があり、長期の予測に与える影響は限定的だと考えられるため、試算の枠組みから排除し、試算の簡素化を図ったものである。
実質GDP算出の第一の要素である就業者数については、次式で算出する。
就業者数=人口×労働力率×(1−失業率)
人口の値は、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成9年1月推計)」の中位推計値を使用する。労働力率、失業率については、現在の経済構造の「延長ケース」として算出する試算の第一段階では、「労働力調査報告」でデータのそろう99年時点の性別・年齢階層別(5歳区分)の実績を将来にも延長して使用する(その際、労働力統計で65歳以上として示されている労働力人口をすべて65歳から74歳であると想定して当該年齢層の労働力率を算出した)。従って、性別・年齢階層別に就業者数を算出し、それを合計することで総就業者数を算出する形になる。
実質GDP算出の第二の要素である労働生産性については、次式で算出する。
労働生産性上昇率=資本装備率上昇率×α
(資本装備率=実質資本ストック/就業者数)
将来の実質資本ストックについては、「民間企業資本ストック年報」のデータをベースに、次の算式で算出する。
実質資本ストック=前年の値×(1−除却率)+当年の実質新設投資額
除却率は2000年以降、90年から99年までの10年間の実績の平均値(4.3%)が続くものとした。また新設投資額は、名目GDP比でみて99年(13.8%)の水準で一定と想定した。ただし、GDP全体と資本設備では物価上昇率が異なる。これまでは、設備投資デフレータの上昇率は概してGDPデフレータのそれを下回ってきた。それを前提にすると、名目ベースでのGDP比が一定の場合、実質ベースでのGDP比は上昇を続けることになる。そこで、ここでは、GDPと設備投資のデフレータ上昇率格差を、90年代の平均値である1.0%で一定として、新設投資額の実質値を算出した。
また、労働生産性上昇率の算式におけるαは、労働生産性に対する資本装備率の弾性値である。ここでは、過去の実績から0.5と想定した。
一人あたり実質家計需要については、次式で算出する。
一人あたり実質家計需要=実質家計需要/総人口
=(実質GDP×家計需要比率)/総人口
総人口については、就業者数の推計の場合と同様、「日本の将来推計人口(平成9年1月推計)」の中位推計値を使用する。家計需要比率(家計需要/GDP)の値は、推計期間を通じて一定であると想定した。
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