「時が来た」
「いつもの場所で」
元X-JAPANのYOSHIKIが登場するセブン-イレブンのCMのセリフだ。
セブン-イレブンは、今期にも売上高でダイエーを抜いて小売業日本一の座につく見込みだ。名実ともに日本の流通業の主役となるわけだが、「時が来た」というのは、単にそれだけのことではなさそうだ。今、コンビニそのものが、次なる進化の「時」を迎えている。
ネットワーク複合体としてのコンビニ
コンビニは、70年代半ばに登場するや否や、家庭の冷蔵庫代わり、タンス代わりの存在として人々の暮らしのなかに定着していった。今や、最大手セブン-イレブンは8,200店、二番手のローソンも7,400店という巨大な店舗網を築いている。
その店舗網を裏側から支えているのが、強力な情報網だ。限られた売り場をもっとも効果的に運営するために、POS(販売時点情報管理)システムを活用し、売れ筋に絞り込んだ品ぞろえを徹底的に追求する。コンビニの圧倒的な販売力は、そこから生み出された。
強力な情報網と販売力は、コンビニを中心とした供給者間の協力関係の構築につながった。どんな商品がどのように売れるのか。コンビニが持つ販売データと、それを収集・分析するシステムは、メーカーにとっても大いに魅力的で、コンビニ主導によるメーカーとの共同商品開発が進められることになった。さらに、商品輸送の面でも主導権を握り、温度帯別、頻度別の配送が可能な、高度な物流網を構築した。
こうしてコンビニは、店舗網、情報網、物流網、供給者間の協力関係といった次元の異なる複数のネットワークの複合体へと進化してきたのである。
さらなる進化
「ネットの時代」などという場合のネットとは、インターネットなどオープンな電子情報網を指していることが多い。しかし、コンビニのネットワークは、現実に訪れることのできる店舗網、現実にモノを運べる物流網、独占的に使えるクローズドな情報網であり、それらがコンビニの存在を際立たせている。
リアルなネットワーク、クローズドなネットワークは、コンビニが提供する商品・サービスの幅を急速に拡充することを可能にした。宅配便やDPEの受け付け、各種チケットの発行、ソフトのダウンロード、ATMの導入で銀行の役割まで、コンビニは実に多彩なサービスの窓口となっている。神戸の震災の際には、コンビニのネットワークは災害時のライフラインになり得ることも実証された。
今後、B to Cのeコマース(対消費者の電子商取引)が広がっていけば、リアルなネットワークを持つコンビニの存在はますますクローズアップされるだろう。総合商社が競って有力なコンビニと提携しているのも、そうした展望を持ってのことだ。
コンビニは、産業が消費者と接する最前線の拠点として、また、そのネットワークは、企業がさまざまな商品・サービスを消費者に届けるための強力なパイプとして、機能しはじめている。コンビニは、冷蔵庫代わり、タンス代わりの存在から、消費生活と産業活動の双方にとって不可欠なインフラへと進化しつつある。
重荷となるフランチャイズ・システム
とはいえ、そうした進化の可能なコンビニは一握りに過ぎないだろう。物流網、情報網を十分構築しきれている企業が数社にとどまっているためだ。また、ネットワークを構築できている企業も、さらなる進化を遂げるには、大きな課題を残している。
まず、100平方メートル前後の限られた売り場を、従来の冷蔵庫的な機能と新しいサービス提供とで、どう配分するかを考えなければならない。店員の教育やマニュアル化も難しくなる。それらの課題を乗り越えるには、ネットワークを最大限に活用するための本部主導の運営が必要だ。
そうなると、これまでの急成長を支えてきたフランチャイズ・システムが重荷になってくる。ネットワークの端末である店舗そのものは、それぞれのオーナーのものであり、チェーン本部が完全にはコントロールできないからだ。店舗のオーナーにしてみれば、手間ばかりかかって粗利を稼げないサービス事業は、厄介以外の何物でもない。
その調整には相当な困難が予想される。この難関を単独で突破できるのは、最大・最強のコンビニ、セブン-イレブンだけかもしれない。しかし、それに続くローソン、ファミリーマートには、総合商社が援軍に付いている。進化の方向は一つとは限らない。
「いつもの場所で」コンビニは、どのような進化を見せてくれるのか。その行方は、産業活動全体に、また私たちの暮らしにも大きな影響を及ぼすだろう。
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