(本稿に関しましては、掲載稿のファイルが手元にないため、オリジナルの原稿をアップしています。特に、「9.おわりに−淘汰と競争の時代ー」の章は掲載段階ではカットされておりますが、ここでは筆者の考えを明確にするため、そのままの形で載せさせていただきました。)
1.はじめに−サービス産業への進化−
二〇〇〇年に入り、日本経済の復調は次第に鮮明になってきた。しかし、今後数年間は、あらゆる産業、企業、個人が、新しい時代環境に適応するための調整期間ということになるだろう。もちろん金融業も例外ではない。というよりも、時代の変化への適応がもっとも必要なセクターとさえいえる。
従来の金融業は、産業の育成役、決済機能の担い手、といった意味で経済全体のインフラと位置付けられ、競争制限的な規制で保護されてきた。しかし、資金制約の緩和にともない、産業の育成役としての金融業の地位は、ベンチャー・キャピタル、総合商社、コンサルティング・ファームなどと並ぶ一プレーヤーに過ぎなくなってきた。また、情報技術の進歩によって、資金決済サービスの高度化と、それにかかわる諸機能のアンバンドリングも可能になっている。これらの結果、金融業のインフラとしての性格は弱まり、保護的な規制の必然性は薄らいだ。
今、金融業は、顧客ニーズを第一に考える「サービス産業」への進化が求められている。インフラとしての位置付けゆえに、規制の枠組みのなかに安住してきた金融業にとって、この変化はきわめて重大だ。
もちろん、現実に規制が緩和されるかどうかは、規制当局の判断次第である。しかし、企業、個人両セクターからの幅広い要請と、マクロの視点での必然性があれば、最終的には、それらが当局を動かし規制緩和を促していくはずだ。
そこで本稿では、国民全体のニーズに沿った規制緩和は当然進むものと仮定したうえで、サービス産業としての金融業がどのような変貌を遂げていくのかを展望してみたい。
2.金融と商品流通の対照
金融を単なる資金の流れと捉えると、金融セクターは、資金を流すパイプ役のイメージになる。これは、インフラとしての金融業のイメージだ。それを、資金の流れと表裏をなす金融資産の流れとして捉え直してみると、また違ったイメージが浮かんでくる。個別の投融資(=原資産)ごとに固有のリスクとキャッシュフローが、金融セクターを経由する間に、さまざまに加工、変換され、金融商品に仕立てられて流通していくイメージだ。
サービス産業としての金融業を考えるには、この捉え方の方が適している。それは、金融資産の流れとして捉えた金融の枠組は、一般商品の製造・流通の仕組みとまったく同じ構造であり、一般商品の流通と比較、対照することで金融業を捉えなおすことができるからだ(下図、注1)。
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