規制緩和の流れを受けて、銀行ビジネスへの新規参入の計画が相次いで発表されている。流通業からはイトーヨーカ堂、製造業からはソニー、さらには、イーバンク銀行のように、まったくの新規ビジネスとして、個人が新たに立ち上げようとしているケースもある。
これらの新規参入は、単に銀行の数を増やすだけのものではない。新規参入組はいずれも、既存の銀行とはまったく違うビジネスモデルを想定している。硬直的、画一的だった従来の銀行ビジネスに新風を吹き込むものといえるだろう。
マーケット・インの発想が主流
既存の銀行のビジネスは、資金・財務面を軸とする企業活動サポート、一般消費者の資産形成のサポート、そして決済関連サービスと、大きく三つの領域に区分される。そして、その三つの領域を一体としてカバーしているのは、銀行が、「預金」という特殊な金融商品を提供しているからに他ならない。
「預金」は、消費者にとってもっとも一般的な資産形成の手段であると同時に、銀行や企業セクターにとっては低コストで資金を集める手段である。加えて、経済活動すべてにわたる決済手段の中核でもある。こうした性質を持つ「預金」の提供が銀行に限られているため、前述の三つの領域のサービスを、銀行がまとめて担うことになったのである。これはまさに、供給サイドの条件から生じる「プロダクト・アウト」の発想である。
対する新規参入組の構想は、それぞれにまったく異なったビジネスモデルではある。しかし、既存の銀行とは対照的に、顧客のニーズを基点とした「マーケット・イン」の発想に基づいたモデルだという点では一致している。
イトーヨーカ堂であれば、自社グループの総合スーパーやコンビニに来店する顧客、ソニーであれば、ネットサービス事業のユーザーが何を望んでいるかという点からスタートして、決済サービスの提供、銀行事業への参入という構想が生まれたのである。イーバンクにしても、インターネットや携帯電話の普及といった新しい社会環境のなかで発生してきた消費者のニーズに応えることが発想の原点になっている。
規制次第で路線変更も
既存の銀行では、三つのサービス領域をカバーするために、金融の専門性を有した人材を数多く抱えているが、それは半面では高コストの体質に結びついている。新規参入組は、サービス領域を限定することに加え、手持ちの経営資源やITを活用することで、低コストでのサービス提供を可能にする考えだ。
また、新規参入の構想は、いずれも決済関連サービスを主軸に据えたものである。他の二つのサービス領域は、金融商品や調達手法が多様化したことで、既に預金の提供という機能がサービスを提供するうえでの優位性に結びつかなくなっており、銀行の形で参入する必然性が薄らいでいる。唯一、決済関連サービスに関してだけ、そのベースとなる預金商品を自ら提供できるかどうかが、ビジネスモデルの根幹に関わるポイントとなる。
ただし、決済関連サービスも、必ずしも預金商品をベースにする必要はなく、銀行でなくても可能な事業である。現に、トヨタ自動車は、証券会社の資格で決済関連サービスを提供する計画を打ち出している。
今後、銀行設立の認可がさらに遅れたり、過度な規制のために自由な事業展開が妨げられるような場合には、銀行への参入を図っている企業も路線を変更し、証券会社など、別の資格でのビジネスモデルを模索することになる可能性も高まってくる。
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