デフレ・スパイラルの懸念は遠のいたが、物価は依然として安定している。ただ、物価統計の動きを見ると、流通業者にとって、新しい状況が生まれつつあることがうかがえる。
主な物価統計としては、卸売物価指数(以下WPI)と消費者物価指数(以下CPI)の二つが知られている。WPIの方は、メーカー、あるいは一次卸が販売する際の価格の動き、CPIは消費者が購入する際の価格の動向を表す指数である。流通業の立場からみると、WPIは仕入れ価格、CPIは販売価格の指標ということになる。ということは、この二つの指数を比較することで流通マージンの動きをみることができるわけだ。
ただし、WPIとCPIとでは、対象とする範囲が違っている。WPIには企業が購入する生産設備や工業原料などが含まれるし、CPIには生鮮食品やサービスが含まれる。そこで、両者の動きを比較するために対象範囲をそろえて、上昇率の推移を示したのが下の図である。
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消費財の物価指数上昇率の推移 |
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- 消費消費者物価統計年報(総務庁)、物価統計年報(日本銀行)のデータから作成
- 2000年の値は、1〜6月の月次データの前年同期比
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この図に見られるとおり、WPIとCPIは連動して上下しているが、90年代の半ばまでは、CPI上昇率は常にWPI上昇率を上回ってきた。つまり、流通マージンは拡大し続けてきたということだ。
その構図を崩したのは、90年代のいわゆる「価格破壊」の動きである。新興ディスカウンターの低価格を武器にした挑戦を受けて、流通各社は自らのマージンを削り利益を犠牲にしての価格競争に踏み切り、泥沼の消耗戦に突入した。その状況は、物価指数の動きにも鮮明に表れている。95年以降、WPIとCPIの上昇率にはほとんど差がなくなっており、流通マージンが伸び悩んだことがうかがえる。流通業は、マージンを伸ばせない、きわめて厳しい時代を迎えたのである。
しかし、景気が底を打った99年、流通業の経営環境にも変化の兆しが見えてきた。図に見られるとおり、WPIとCPIの上昇率に再び格差が生じてきたのである。これは、流通マージンが再び拡大しはじめたことを意味する。とはいっても、消費が目覚しく回復しているわけでも、流通業の競争が一段落したわけでもない。自然にマージンが回復するような環境が整ったということではなさそうだ。
今の段階で断言することは難しいが、流通マージンに回復傾向が生じたのは、体力勝負の価格競争から、サービスの拡充や店舗の演出面での工夫など、より多面的な、知恵を活かした競争に移行しつつあることの表れであろう。これは、経営環境が全面的に好転したということではないにせよ、知恵と工夫次第で勝ち残ることが可能になったという意味で、将来への光明がみえてきたということではないだろうか。
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