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チェーンストアエイジ 2000年8月1日号掲載
「データで読む流通」
消費動向でみる小売の経営環境

 日本経済にとっての90年代は「失われた10年」と呼ばれているが、大手を含む大多数の小売業にとっては「泥沼の10年」とでも言うことができる。この間には、ヤオハン、長崎屋の経営破綻や、いくつもの百貨店の閉店など、暗い話題が相次いだ。

 その背景に、個人消費の低迷があったことは間違いない。図は、バブル崩壊後の不況が一応底を打った93年からデータの揃う98年までの個人消費の増減を項目別に表したものである。この図によれば、消費の総額は、5年間で名目ベース8%の増加となっている。しかし、項目ごとにみると、伸びているのは家賃や公共料金、医療費などで、流通業が扱う領域では、衣・食・住、どれをとっても減少している。なかでも、衣料関連は15%もの減少と、惨憺たる状況だったといえる。

項目別にみた個人消費の動向
(93年から98年までの増減率)
GDPベース、個人消費の目的別項目ごとの増減率

 こうみると、衣料品を主力とするGMSや百貨店が不振をきわめているのも仕方がないことと思われる。とはいえ、例外的に元気な小売業ということでいつも例にあがるしまむらやファーストリテイリング、あるいはGAPといった企業が衣料品を主力としていることを考えると、不振を環境のせいばかりにはできないことも確かである。

 また、図によると、住関連商品(統計上は家具・家庭器具・家計雑費)が比較的好調であったことが読み取れる。これは、有力なホームセンターやドラッグストア、家電量販店が急成長を続けていることや、5月に発表された99年の商業統計において、住関連スーパーが他業態を大幅に上回る成長を記録していることとも整合的なデータといえるだろう。

 一般的にいって、不況下で所得環境が良くない時期には、必需的な分野への支出はなかなか抑えられないかわりに、選択的、趣味的な消費が削られると考えられている。とはいっても、今回の不況局面では、生活の基本ともいえる「食」などの分野が堅調で、不要不急といえそうな「教養・娯楽」の消費活動が落ち込むという形にはなっていない。

 今日では、単純に、「食」が必需的で「教養・娯楽」が選択的とはいえなくなっている。むしろ、生活水準が向上し成熟した消費市場では、消費のあらゆる分野に選択的、趣味的な要素が入り込んでいる。贅沢な外食を控えて高価なブランド品を買ったり海外旅行の資金を貯めたり、というような消費行動は、取り立てて珍しくはない。

 もはや、単純に不況に強い商品分野とか弱い分野といった議論はできない。逆にいえば、全体として厳しい環境であっても、あらゆる分野で成功のチャンスがあるということだ。しまむらやファースト・リテーリングの成功が、その何よりの証左といえる。消費者は何を必要とし、何を求めているのか。今、生き残りを図るすべての企業が、成熟した消費市場から突きつけられた課題である。


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