世界最大の流通企業ウォルマート(Walmart)が、西友への資本参加という形で、いよいよ日本へ進出することを決めた。それが日本の流通業界にどのような影響を及ぼすかについては、いずれ改めてレポートする機会があるだろうが、ここでは、その前段として、既にウォルマートが進出している英国の状況について、書いておきたい。
1.地元企業との提携による進出
文化や制度の異なる国では、流通の仕組み、小売の業態等、さまざまな面で異なった進化を遂げる。だからこそ小売業の国外進出は難しい。ことに、消費生活全般に関わる総合小売業の場合は、流通システムや小売企業が成長していない流通後進国への進出はともかく、日・米・英・仏・独といった巨大な流通企業が存在している国に出ていって、一から事業を構築するというのは、ほとんど不可能に近い。近年でも、日本におけるカルフール(Carrefour)の不振、マークス・アンド・スペンサー(Marks & Spencer)の大陸欧州からの撤退といった例が、それを如実に示している。
今後は、流通先進国間の総合小売業の相互進出は、既存企業との提携や買収といった形態に絞られてくるだろう。西友との提携によるウォルマートの日本進出は、その流れに沿ったものと理解できる。同様に、同社の英国への進出も、大手流通業の一角であるアズダ(Asda)の買収によるものであった。しかし、英国小売業の業界構造は、日本とは大きく異なっている。その点を認識した上でないと、本質を見誤ることにもなりかねない。
2.英国では空白地帯に上陸
英国の小売業界の特徴として、日本のGMSや、米国のDiscountstore、Super Center、大陸欧州のHyper Marketのような、衣食住のすべてをカバーする総合業態が、きわめて手薄だという点があげられる。テスコ(Tesco)やセインズベリー(Sainsbury)など英国の上位企業の多くが主力として展開しているのは、食品と日用雑貨に特化した大型店舗、Super Storeである。それに対して、ウォルマート−アズダが展開しているのは、圧倒的な低価格で衣食住の全分野をカバーするワンストップ型の総合業態である。
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アズダの店舗
(ロンドン) |
アズダ−ウォルマートの名を冠したSuper Center
(バーミンガム) |
(写真をクリックすると拡大画像を表示します。) |
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その意味で、ウォルマートの英国進出は、空白地帯へ攻め込んでいくイメージが強い。英国の上位企業では、マークス・アンド・スペンサーが衣食住の全分野を扱っているが、全商品を高品質なPBで固めており、低価格で集客しようというウォルマート−アズダとは、直接の競争相手とはなりにくい。
この点、GMSが次々と沈没するほどの激しい価格競争が繰り広げられてきた日本への進出とは大きく異なっている。日本進出が、西友への段階的出資というきわめて慎重な計画となっているのも、この日英の対照を考えれば無理からぬところと言えるだろう。
3.上位二社との本格開戦
とはいえ、ウォルマート−アズダが、いつまでも空白地帯を進んでいけるわけではない。寡占化が進み、市場が飽和しつつある食品分野では、今後の成長余地は限られていることから、テスコ、セインズベリーの二強が、Hyper Marketの展開を本格化させつつあるからだ。ウォルマートがアズダを買収した1999年頃から、テスコは“Extra”と名付けたHyper Market業態の店舗を急速に増やしてきている。もう一方のセインズベリーも、非食品を拡充した大型店舗の出店を加速させている。いずれもまだ試行段階ではあるが、この試みは、両社の今後の成長力を占う大きなカギであることは間違いない。
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テスコのHyper Market業態“Extra”
(ロンドン) |
セインズベリーの非食品拡充型の新鋭店舗
(バーミンガム) |
(写真をクリックすると拡大画像を表示します。) |
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品質や嗜好による差別化が比較的容易な食品分野と違って、非食品のウェイトの高い総合業態は価格競争に陥りやすい。Hyper Marketの展開は、英国上位二社にとって、両刃の剣とも言える。そうした状況下でのウォルマートの参入は、テスコ、セインズベリーの両社から見れば、相当にやっかいな事態ということになる。たとえウォルマート−アズダの事業が軌道に乗らなくとも、彼らが挑んでくるであろう価格競争に巻き込まれてしまえば、テスコ、セインズベリーの収益力も無傷ではすまないだろう。いずれにしても、ウォルマート−アズダの展開は、英国流通業界の将来像を大きく左右することになりそうだ。
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